技術士第一次試験 平成15年度 適性科目 問題と解答案

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適性科目解答案一覧
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2-3 2-8 2-13
2-4 2-9 2-14
2-5 2-10 2-15

■注記■ここでは、本試験の「タネ本」として下記文献を参考にしました。文中では略称を使っています。これらは試験勉強のテキストともなりますので、今後さらに調べていきたいと思います。

略称 書籍名 著者 訳編 発行所 参照 正解に関わる記述がテキストにあった問題数
テキスト1 科学技術者の倫理〜その考え方と事例 Harris,Pritchard&Rabins 日本技術士会 丸善株式会社 こちら
テキスト2 環境と科学技術者の倫理 Vesilind&Gunn こちら
テキスト3 科学技術者倫理の事例と考察 米国NSPE倫理審査委員会 こちら
テキスト4 技術士の倫理 日本技術士会倫理委員会 日本技術士会 こちら

課題1
 技術士法第4章、第45条の2には、技術士等の公益確保の責務として、次の規定がある。
  第45条の2 技術士又は技術士補は、その業務を行うに当たっては、公共の安全、環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならない。
 この規定の背景には、技術士の責務について次のような認識がある。
 現代社会において、[ ア ]は社会の隅々まで浸透し、多くの便益をもたらし、安全で豊かな生活を可能とすると同時に今後の経済社会の発展の基盤として不可欠な存在となっている。しかしながら、一方で、[ ア ]は安全問題や環境問題を生じさせる場合もある等、[ ア ]が社会に及ぼす影響の大きさは、正の効果も負の効果も拡大する傾向にある。
 したがって、[ ア ]に携わる者は、実務担当能力を有することはもちろんのこと、社会や公益に対する責任を[ イ ]等の活動の前提にする旨の高い職業倫理を備えることが必要である。
 また、自己の能力の範囲を明確に認識し、業務遂行上、専門的な助力の必要性に関して的確に判断し、適切に助力を得ること等も重要である。
 こうした職業倫理を徹底するためには、技術者が属する[ イ ]等を含め社会全体がその重要性等について十分に理解することが不可欠である。


2−1 4ヵ所の[ ア ]には、同じ言葉が入るが、最も適当と思われるものはどれか。

(1) 人工物  (2) 情報  (3) 科学  (4) 遺伝子  (5) 技術

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正解は5
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この科目の試験は、「あなたはどう思うか」とか、「日本語としてすっきりする語句はどれか」と聞いているのではありません。「国あるいは技術士会がまとめた『あるべき技術者像』があるが、あなたはそれを知っているか」というのが出題意図です。
この問題文は、技術士分科会試験部会資料「基礎科目についての基本的な考え方」(2001.3)からの引用で、まるっきり同じ文です。そして途中の「高い職業倫理を備えることが必要である」まではテキスト4のp.21に、そのまま引用記載してあります。
もっとも、こういうことを知らなくても、技術士会の存在意義・法の理念から5以外は考えられません。


2−2 2ヵ所の[ イ ]には、同じ言葉が入るが、最も適当と思われるものはどれか。

(1) 政府  (2) 企業  (3) 地域  (4) 利害関係者  (5) 大学

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正解は2
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これも上記分科会資料あるいはテキスト4のp.21に「企業」と明記されています。
これを知らなくても、法の理念、文脈等から2以外は考えられません。


課題2
 専門職技術者が組織する学協会は、技術業が公衆の信頼のうえに成り立っていること、そして、その信頼を維持することが、技術業と公衆全体のために有益であることを認識している。そのような信頼と尊敬を高めるために、学協会の多くは、その専門職業の価値観と抱負を述べた声明書を発表するようになり、それが一般に「倫理規程」とよぱれるものである。
 倫理規程の発展過程をみると、当初は、技術者とその依頼者との相互関係、及び技術者の間の相互関係について定めた。その後、公衆に対する技術者の責任が規定され、最近になって環境との関わりが重要視されるようになった。


2−3 次に学協会が倫理規程を採用する根本的な動機が示されている。この中で動機として、ふさわしくないものはどれか。

(1) 技術者の学協会が社会と結ぶ契約の意味がある。
(2) 専門職として、どう行動し判断するかを技術者に助言する。
(3) 法律のように技術者に倫理を強制する。
(4) 学協会の技術者たちが互いに支え合う助けになる。
(5) 公衆の善のためという価値観を背負った意思決定を奨励する。


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正解は3
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テキスト4のp.2には、次のように記されています。
法は、国・自治体などの権力による強制を用いる他律的な規範であり、倫理は、人それぞれが自主的に遵守するよう期待される自立的な規範である。
このようなこと、すなわち倫理とは自発的なものでなければならないという基本理念は、常識感覚として身につけているべきでしょう。


課題3
 技術者倫理の目標をよく示す概念として「[ ア ]倫理」がある。これは「[ ア ]医学」とのアナロジーで作られたものである。私たちは、病気がひどくなる前に注意深く私たちの健康のニーズに耳を傾けることにより、そのような病気になることを防ぐことができる。同様に、注意しないと倫理的危機になり得るような種類の倫理問題を予想することにより、そのような危機の発生を防ぐことができるのである。


2−4 2ヵ所の[ ア ]には、同じ言葉が入るが、最も適当と思われるものはどれか。

(1) 基礎  (2) 臨床  (3) 補完 (4) 予防  (5) 社会

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正解は4
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テキスト1のp.19に問題文とほとんど同じ記述があります。
この本で我々が議論するものの多くは、いわゆる予防倫理と言われるものであり、予防医学の概念に似ている。我々は病気がひどくなる前に注意深く我々の健康のニーズに耳を傾けることにより、そのような病気になることを防ぐことができるかもしれない。同様に、注意しないと倫理的危機になり得るような種類の倫理問題を予想することにより、そのような危機の発生を防ぐことができるかもしれない。
「我々」を「私たち」、「かもしれない」を断定調にしただけの丸々引用です。
予防倫理あるいは予防医学は知識として知っていたいところですが、文脈からもこれ以外ないことがわかるのではないかと思います。


課題4
 「公衆の安全、健康、及び福利を最優先すること」は、技術者倫理で最も大切なことである。さて、公衆は技術業の業務によって危険を受けうるが、技術者倫理における一つの考え方として、「公衆」は、[ イ ]である」というものがある。

2−5 [ イ ]に入るものとして、最も適当と思われるものはどれか。

(1) 国家や社会を形成している一般の人々
(2) 背景などを異にする多数の祖織されていない人々
(3) 専門職としての技術業についていない人々
(4) よく知らされた上での同意を与えることができない人々
(5) 広い地域に散在しながらメディアを通じて世論を形成する人々


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正解は4
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この問題は、インフォームド・コンセントのことを聞いています。
テキスト1では、「公衆」の定義の一つとして、インフォームド・コンセントを与える立場にあるかどうかということをあげており、これはそれに関する問題と判断されます。テキスト1のp.55には、以下のように記してあります。
より妥当な公衆の定義は、人々を公衆の一部とするものは、技術行の製品及びサービスの影響に対して、自由なインフォームド・コンセントを与える立場になく、それらに影響されやすいという主張と共に始まっている。「公衆」は、ある程度の無知、無力、そして受動性という特性を持つものとされる。この解釈によれば、「公衆」とは、情報、技術的知識、あるいは熟慮する時間を十分に持たないために、技術者が彼の依頼者又は使用者のために行使する権限によって、多少なりとも傷付けられやすくなっている人々のことである
この解釈は、デービスが指摘するように、ある人は1つの観点からは公衆の一部であり、他の観点からはそうではないことがあり得ることを示唆している。

ここでインフォームド・コンセントという用語が出てきます。もともと医療現場で生まれた用語で、その意味は次の通りです。
informed-consent(説明と同意)のこと。患者が自分の病気と医療行為について、知りたいことを“知る権利”があり、治療方法を自分で決める“決定する権利”を持つことをいう。個人主義の意識が高いアメリカで生まれ、80年代半ばから日本でも必要性が認識されてきている。
典型的なのはがん治療で、がんであることを告知し、その後に取り組む治療法について、その効果と副作用、リスクなどを全て洗いざらい説明した上で、治療を受ける(同意する)かどうかを決めてもらうという手順がインフォームド・コンセントです。
さらに、上記文章の後に1986年のチャレンジャー爆発事故を引用して、次のようにあります。なお、この事故は、O−リングが弾性を失い、シールがうまくいかなくなったために燃料が漏洩、引火したことが原因でした。
宇宙飛行士は、欠陥のあるO−リングによる爆発の危険性に関しては公衆の一部である。何故なら、その危険性の知識を全く持たなかったからである。彼らはブースター・ロケットの氷の情報に関しては、公衆の一部ではない。彼らはこの危険を知っていて、内在するリスクに対して、明確に知らされた上での同意をしているからである。
つまり、チャレンジャー乗組員は、ブースター・ロケットの氷の問題に関してはインフォームド・コンセントを与えることができた。しかし、O−リングについてはこれができる立場になかった。なぜなら彼らはその危険性に関する情報を知らされていなかったからである。そういう意味で彼らはO−リングに関しては公衆であった・・・・ということです。
英文和訳の書籍であるため、独特の言い回しが解釈しにくさを生んでいますが、要は、長所・短所、リスクなどを総合的に勘案して自分で判断することができるだけの、専門的知識・情報・考える時間がないと、無力・受動的にならざるを得ない、その状態が公衆であるということです。
病院で治療を受けるとき、その治療法について、目的と効果、リスク(その程度と発生確率)などを全部知った上で、「わかりました。その治療を施してください」と言えるのであれば、それは公衆ではない。しかし、医学的知識が不足しているか、医者の説明が十分でないか、あるいはじっくり考える時間がないか、そういった事情で、全てを飲み込んだ上での判断ができない場合、医者を信用して治療を受けざるを得なくなります。これはインフォームド・コンセントを与えることできない状態であり、受動的です。この状態を公衆というわけです。
このようなことを知った上でもう一度問題文を見ると、ちょっと舌足らずな点もありますが、「よく知らされた上での同意」とはすなわちインフォームド・コンセントのことだとわかります。実際、テキスト4のp.10には、次の記述があります。
講習は、「よく知らされたうえでの同意(インフォームド・コンセント)」をするために、「知る権利」があり、他方、技術者は、それに対応する「説明責任」があって、その責任を「情報の開示」によって果たす。
「与える」という言葉は日本語として違和感がありますが、「同意を与えることができる」と「同意する」とは違います。「同意を与えることができる」とは「主体的に判断・決定することができる」という意味になります。このことを知っていないと、「同意を与えることができない」→「反対する」→「反対派住民のことだ」という珍解釈になってしまいます。なお、テキスト1では「よく知らされた上での決定」という用語が頻繁に出てきます。
以上により、正解は(4)と判断されます。(1)、(2)、(5)も「公衆」の定義の1つですが、この問題の答えとしては違うと考えます。


課題5
 技術者倫理教育の目標は、アメリカのヘースティングス・センターが提示した高等教育倫理プログラムの5つの目標を基礎にしている。それは次のような目標である。

 1)モラル[ ア ]を刺激すること。
 2)倫理上の問題点を認識すること。
 3)解析的な技量を仲ばすこと。
 4)責任感を引き出すこと。
 5)不一致と
[ イ ]を許容すること。

2−6 [ ア ]と[ イ ]に入る言葉として、正しい組合せを選べ。

(1)  (ア)想像力  (イ)曖昧さ
(2)  (ア)思考力  (イ)厳密さ
(3)  (ア)説得力  (イ)不和
(4)  (ア)持続力  (イ)不器用さ
(5)  (ア)影響力  (イ)無駄


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正解は1
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テキスト1のp.20〜p.23にそのまま出ていますが、感覚的にもだいたいわかります。いかにもアメリカ人が書きそうな内容です。


課題6
 企業の社会的責任が問われる時代になった。企業が外部に提供すべき情報として環境情報があり、そのために環境報告書が約1,000社によって作られている。しかし、近年、企業によっては、サステイナビリティー報告書に切り替えるところが出てきた。サステイナビリティ― (Sustainability)については、次の記述がある。

ア)1992年にヨハネスブルグで行われた地球サミットの正式名はWorld Summit on Sustainable Developmentである。
イ)トリプルボトムライン論では、サステイナビリティーを実現するためには、環境的側面、政治的側面、社会的側面を考慮すべきだとされている。
ウ)サステイナビリティーの定義には、様々なものがあるが、ブルントラント委員会による定義が有名である。
エ)持続可能性にとって最大の問題だと国際社会が認識していることがアフリカなどにおける貧困の克服である。


2−7 これらの記述の正誤を判定して、その正しい組合せを選べ。

(1)  (ア)○ (イ)○ (ウ)○ (エ)×
(2)  (ア)× (イ)○ (ウ)○ (エ)○
(3)  (ア)○ (イ)× (ウ)× (エ)○
(4)  (ア)○ (イ)○ (ウ)× (エ)×
(5)  (ア)× (イ)× (ウ)○ (エ)○


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正解は5
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92年のリオサミットは、まさに画期的な会議でした。いろいろな思惑はあるにせよ、ローマ会議以来いわれ続けていた「宇宙船地球号」を壊してはならないという世界共通認識を確認しただけでも、大きな進歩であるといえましょう。
また、ここで採択されたリオ宣言(アジェンダ21)における「持続可能な開発」あるいは「持続可能な発展」-Sustainable Development-という概念は、科学技術と環境のあり方を考える上で、深く認識しておくべきものであるといえましょう。
ア)・・・・× ヨハネスブルグではなくリオです。「持続可能な開発」を掲げたアジェンダ21はリオ宣言とも呼ばれ、地球環境問題を論じるときには知らないでは済まされない重要なものです。
イ)・・・・× トリプルボトムラインは、企業の社会的責任とあわせて企業の評価尺度として広がりつつある概念で、持続可能な発展をめざす企業は、企業活動の環境的側面、社会的側面、経済的側面の3つの側面がバランスした経営であるべきだという考え方です。なお、ボトムラインとは企業決算の最終結果、つまり利益(損失)にあたります。つまりトリプルボトムライン論は、財務利益だけでなく、環境や社会面をも配慮した企業経営の活動結果を論じるものです。
ウ)・・・・○ そのとおり。持続可能な開発という用語は、国際連合が支援した「環境と開発に関する世界委員会」(委員長の名前をとってブルントランド委員会という)が最初に唱えて有名になりました。しかしア、イが×であることがわかった時点で解答は5しかないので、知らなくても大丈夫です。
エ)・・・・○ そのとおり。「持続可能な開発」という用語そのものが、当初は開発途上国にその資源利用の権利を認めることを目的としていたものです。
なお、上記ウ)とエ)については、テキスト2のp.63に記述があります。


課題7 原子力関係の倫理違反が様々な観点から指摘されているが、実際に被害者を出したのは, 1999年9月に東海村で起きたJCOの臨界事故である。この事故については、次の記述がある。

ア)この事故で2名の死者が出たが、それは、日本における原子力産業における急性障害による初の死者であった。
イ)正式な操作手順書に従った操作が行われず、作業効率を高めるため、違反した操作手順で行われたことが、事故の直接的原因であった。
ウ)臨界事故とは、臨界量を超す放射能が外部に漏洩する事故をいう。
エ)この事故によって近隣住民への健康影響が心配されたのは、強いアルファ線が放出されたためである。

2−8 これらの記述の正誤を判定して、その正しい組合せを選べ。

(1)  (ア)○ (イ)○ (ウ)○ (エ)×
(2)  (ア)× (イ)○ (ウ)○ (エ)○
(3)  (ア)○ (イ)× (ウ)× (エ)○
(4)  (ア)○ (イ)○ (ウ)× (エ)×
(5)  (ア)× (イ)○ (ウ)○ (エ)×


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正解は4
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JCO事故は14年度も取り上げられました。明らかな人災であり、また不正が原因であったショッキングな事件でした。こういう事件の概要を知っていることは技術者として必要ですし、できればこれを他山の石として自らのあり方を考えたいところです。
ただ、ウとエが倫理観というより科学知識問題になってしまっていますので、その点やや残念な問題です。
ア)・・・・○ そのとおり。新聞などに何度も書かれました。
イ)・・・・○ そのとおり。これが一番の問題です。これも新聞などに何度も書かれました。
ウ)・・・・× これは科学の基礎知識ですが、ほぼ常識レベルです。核分裂反応が臨界(どんどん反応が続くライン)を超えてしまう事故ですね。
エ)・・・・× 核分裂によって放出されるのは中性子線です。これも科学の基礎知識です。


課題8
 環境対策に関して、予防原則(precautionary principle),予防的措置(precautionary approach)などといった言葉がある。これらは、科学的に不確実性がある場合であっても、なんらかの環境面での対策をとるべきであるといった主張に使用される。これらの概念に対しては、次の記述がある。
ア)環境に関わることには、かなり不確実性が多い。ヒトの健康リスク・ゼロを実現するために、これらの概念は存在している。

イ)発ガンリスクに対する人工的な化学物質の寄与は極めて大きいために、できるだけ天然物質を使用すべきであり、そのような社会を実現するために、これらの概念はある。

ウ)地球温暖化は科学的に確実な事象であるから、気候変動防止条約は、これらの概念とは異なる。

エ)熱帯林の消滅を防止するために、紙の使用量を削減する行為は、これらの概念に基づく。


2−9 これらの記述の正誤を判定し、その正しい組合せを選べ。

 (1)  (ア)× (イ)× (ウ)× (エ)×
 (2)  (ア)× (イ)× (ウ)× (エ)○
 (3)  (ア)○ (イ)× (ウ)× (エ)○
 (4)  (ア)○ (イ)○ (ウ)× (エ)×
 (5)  (ア)× (イ)○ (ウ)○ (エ)×


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正解は1
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予防原則・予防措置とは、因果関係がはっきりしないリスクであっても、あらかじめ対策を講じておくという考えで、医療の方面から出てきたものです。
すなわち、未然防止とは基本的に違います。未然防止は因果関係がはっきりしています。ここがポイントです。
ア)・・・・× リスクはゼロにすることはできません。低減するものです。リスクに関する基本的な部分で誤りです。
イ)・・・・× この考えはリスク回避ですが、そういう社会実現のための概念ではありません。
ウ)・・・・× 地球温暖化はすでに顕在化しているクライシスであるとともに、温室効果ガスとの因果関係は明瞭です。
エ)・・・・× これも顕在化しつつあるとともに、何より因果関係が明瞭です。


課題9
 阪神淡路大震災の経験から、既存の桁後において地震時の振動により、後桁が橋脚から落下する可能性があることが判明した。このため、落後防止装置を設置する工事が全国規模で進められた。この防止装置は橋脚本体に穴を開け、アンカーボルトを用いて本体と装置を接合する必要がある。ところが、このボルトの長さが不足したまま工事を完了している事例があるとの通報があった。発注した県の技術者が調査した結果、81の後のうち33の橋から、長さが不足しているポルトが見つかった。


2−10 この防止装置の設置工事に関する次の記述を読み、正しい記述の組合せを選べ。

ア)施工業者は、契約で求められた工事を正しく行っておらず、いわゆる手抜き工事の典型で、施工業者の責任は重大である。

イ)施工業者の側からは、発注者側に協議を申し入れるということはなかった。これは、これまでの慣習にもよるが、基本的にはお互いの間で技術的な問題について話し合いをする雰囲気も機会もないという状況が背景にあるものと思われる。この点の改善も必要である。

ウ)発注者側の技術者は、このような事態をまったく予測していなかったと語っている。しかし、橋脚内の鉄筋の密な配置状況を考えれば、新たに穴をあける場合にかなりの頻度で鉄筋に遭遇し、アンカーボルト用の穴の作成とボルトの挿入に支障を生じることは技術力と想像力を持った技術者であれば、ある程度予測のつく事態であると思われる。このような点に関しては発注者側の積極的な努力が求められる。


(1)  (ア)○  (イ)○  (ウ)○
(2)  (ア)○  (イ)○  (ウ)×
(3)  (ア)○  (イ)×  (ウ)○
(4)  (ア)×  (イ)○  (ウ)○
(5)  (ア)○  (イ)×  (ウ)×


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正解は1
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ア)・・・・○ そのとおり。
イ)・・・・○ そのとおり。「機会はあったはずだ」という考えもあるかと思いますが、機会があるないの話ではなく、「改善すべき」かどうかという話です。
ウ)・・・・○ そのとおり。発注者にも技術力は必要です。


課題10
 日本技術士会を始めとする各技術者学協会では、技術者の継続教育のプログラムを数多く提供している。

2−11 この継続教育プログラムに対する技術者の態度について、次の記述を読み、正しい態度の組合せを選べ。

ア)継続教育は経験の乏しい若い技術者のためのものであるから、組織内の若手の技術者に限って積極的に参加を勧める。
イ)自分の属する組織ではオンザジョブトレイニングの体制が確立しているため、このようなプログラムに参加する必要は無い。
ウ)技術者である限り、常に技術力を磨く必要があり、組織内の技術者にあまねく参加の機会を与え、それぞれの経験に応じた能力の向上を図る。
エ)場合によっては自ら参加料金を負担し、休暇をとってでもプログラムに参加し技術力の向上を目指す。


(1)  ア と イ
(2)  ア と ウ
(3)  ア と エ
(4)  イ と エ
(5)  ウ と エ


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正解は5
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ア)・・・・× 熟練者も当然参加すべきです。
イ)・・・・× 教育訓練は、OJT・Off-JT・自己啓発の三位一体です。
ウ)・・・・○ そのとおり。
エ)・・・・○ そこまでするかという気はするが・・・・少なくとも誤りではないし、これが○でないと正解がなくなってしまいます。


課題11
 次に述べる行動の中で、技術士としてふさわしい行動はどれか。ふさわしい行動を0、ふさわしくない行動をxとして、問題H−12(アイウ)及ぴ問題H−13(カキク)の各群について、最も適当と思われる組合せを選べ。


2−12

ア)技術士Aは、Sケミカル社に勤務し、同社工場の排水処理責任者である。Aは、最新の測定方法によると、排水中の有害物質の含有量が、排水基準の許容限度を僅かだが超えていることに気がついた。しかし、超えている量は僅かであり、定められた公定の分析方法では、限度以下であった。また、工場は繁忙期でフル稼働していたので、工場長や関係者に報告しなかった。

イ)技術士Bは、M機械会社の資材購買責任者である。新しい製品に使用する材料の納入業者の選定作業に追われていた。10社あまりの候補の中から、B及び担当技術者の評価によって、最も技術力がすぐれており、価格も適正であったN工業を選定した。購買契約の場で初めて、Bは彼の大学時代の後輩がN工業の取締役であることを知った。契約を締結した後、その後輩の取締役から連絡があり、かに料理で有名な料亭で夕食を共にすることになった。大学卒業以来の再会であり、夕食は楽しい席となった。料亭での支払いは高額なものになったが、後輩がこれからもお世話になることですから払わせてほしいと頼むので、すべて後輩に支払いをまかせた。

ウ)技術士Cは、これまで勤めていた大手企業を最近退職し、新しく設計コンサルティング会社を設立した。Cは、その他の会社からも3名の有能な若手技術士を引き抜き、本格的に新会社の営業活動を始めようとしていた。そこで、新会社のパンフレットに、新会社のクライアントとプロジェクト実績として、自分自身や引き抜いた技術士が以前勤務していた会社のもつクライアントや、そこで自分たちが担当したプロジェクト実績をそのまま列記した。


(1)  (ア)○  (イ)○  (ウ)○
(2)  (ア)○  (イ)×  (ウ)×
(3)  (ア)×  (イ)×  (ウ)○
(4)  (ア)×  (イ)○  (ウ)○
(5)  (ア)×  (イ)×  (ウ)×


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正解は5
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ア)・・・・× 報告しなかった理由が2つとも誤り。
イ)・・・・× かにでもふぐでも食べればいいが、ビジネスで個人的な借りは作ってはいけません。できれば食事も慎重に。
ウ)・・・・× テキスト3のp.203に「事例No.96-11 広告−以前の雇用者のものである仕事と依頼人を記した営業促進用資料」としておおむね同じことが書いてあり、「倫理に反する」と結論付けられています。


2−13 

カ)技術士Dは、Y大学から工学博士号を得るために、これまでの研究の成果をとりまとめ博士論文を執筆していた。Dの指導教授はU教授であった。Y大学の内規では、論文博士として博士論文が認められるには、最低2編の研究論文が、査読のある専門学術雑誌に掲載される必要があった。しかし、Dはこれまで1編しか掲載された論文がなかった。そこで、U教授は、教授が大学院生を指導して執筆している論文の共著者にDを加えようと提案してくれた。この論文は、Dの博士論文と共通の研究テーマを扱ってはいるが、D自身はその研究に実質的に関与していなかった。ありがたい申し出ではあったが、Dは教授の提案を丁重に辞退することにした。

キ)技術士Eは、大手自動車会社の品質管理部に勤務する若手エンジニアである。新型車の発売に先立ち最終的なチェックをしているとき、シフトギアとクルーズコントロールスイッチを非常に稀な順序で動かすと、クルーズコントロールが誤作動してエンジンの回転数が制御できないことに気づいたが、確信はもてなかった。直属の課長に相談したところ、「そんなやり方で車を運転する人間はいない。それに安全性に問題があると言っても確信はもてないのだろう。もう既に発売日を確定して広報は大々的なキャンペーンに入っているんだから、そんな些細なことは無視しろ。」と一蹴され、Eは大いに不満であった。そこで、誰にも相談することなく、すぐさま、インターネットを使ってこの情報を匿名で外部に通報した。

ク)情報工学部門の技術士Fは、ソフトウエア関連のコンサルティング会社の共同経営者である。しかし、Fは重い病気のために約1年間入院していた。この間、ほとんど新聞や情報技術雑誌を読むこともできなかったし、ましてや、専門技術書を読み、インターネットで情報を検索して調査をすることなどはできなかった。ようやく病気も完治し、仕事に戻ろうとしていた矢先、共同経営者のGから、「Fさん、半年ほど前に発表された新しいOSをご存知ですよね。流通業のP社からこの新しいOSを使用するシステム構築のコンサルティングの依頼が来ていますので、担当していただけませんか。他のエンジニアは、いま忙しいので、Fさんには、お一人で仕事をやっていただかなければなりませんが。」という相談があった。Fは、「もちろんです。よろこんでお引き受けしますよ。」と答え、ただちにP社との技術打ち合わせに入った。


(1)  (カ)○  (キ)○  (ク)○
(2)  (カ)○  (キ)○  (ク)×
(3)  (カ)○  (キ)×  (ク)○
(4)  (カ)○  (キ)×  (ク)×
(5)  (カ)×  (キ)×  (ク)○


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正解は4
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カ)・・・・○ テキスト3のp.136に「事例No.85-1 論文の共同著作」として似たケースが記されており、「倫理的でない」とされています。他人のふんどしで相撲をとってはいけません。
キ)・・・・× 誰にも相談せずインターネットというのがいけません。告発は、十分な努力・説得を行った末に、監督官庁への報告などの手順を踏むべきです。マスコミやネットに公表することは、パニックや風評被害など、本人の想像を超える影響が出ることがあり、第三者に害が及んだりします。これでは、公益のための告発が、別の側面で公益を損ねることになってしまいます。
ク)・・・・× 手続き上の問題ではなく、専門的応用技術力のない危険性のある人間がこういうことをすることが公益確保になるでしょうか。


課題12
 学術情報として認められるためには、十分な品質管理を受けたものであることが条件となる。学会はこのために「ピア、レヴュ― (peer review)」というシステムを設けている。これは投稿された論文に対して、その論文としての品質を出版前に同分野の研究者が評価する手続きを指す。これを「査読」という。
 査読による評価の狙いは、次のようにいわれている。


 1)新しい事実、[ ア ]、理念が示されているか。
 2)他の研究者による先行研究を公平に評価しているか。
 3)示された
[ イ ]で示された結果を得ることができるか。
 4)他の
[ ウ ]が導かれることはないか。
 5)著者の示した[ ウ ]は、本質的で、強固で、正当か。


 査読のあり方は専門分野により異なる。日本の場合について示せば、論文ごとに査読者を設けて査読している学会は、理学、工学、農学においては70%台に達しているが、一方、法学において20%、文学において29%、経済学においては38%にとどまっている。医学は中間の50%である(日本学術会議、1994)。

2−14 査読による評価の狙いについて、4ヵ所の[  ]に入る言葉の組合せとして、最も適当と思われるのはどれか。

(1)  (ア)結論  (イ)知見  (ウ)方法
(2)  (ア)結論  (イ)方法  (ウ)知見
(3)  (ア)方法  (イ)知見  (ウ)結論
(4)  (ア)知見  (イ)方法  (ウ)結論
(5)  (ア)方法  (イ)結論  (ウ)知見


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正解は4
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[ア]がややわかりにくいのですが、[イ]がポイントです。ここは「方法」以外に収まる言葉がありません。これで(2)か(4)に絞られます。
4)の文章における[ウ]は、「知見が導かれる」という言葉はおかしいので、「結論」しかありません。これで決まりです。


課題13
 特許法は、その35条3項で、従業者は、「契約」、「勤務規則その他の定」により、職務発明について使用者に特許を受ける権利を承継させたときは、「相当の対価」の支払を受ける「権利」を有する、と定めている。
 使用者は、職務発明に係る承継に関しては、「勤務規則その他の定」により一方的に定めることができるものの、「相当の対価」の額についてまでこれにより一方的に定めることはできないものと解するのが相当である。
 上記条項(特許法35条3項を指す)は、職務発明に係る承継を生じさせるものとして、従業者の「[ ア ]を必須の要素とする「契約」と並んで、従業者の[ ア ]を要素としない「勤務規則その他の定」を明確に定めているから、使用者が従業者の[ ア ]いかんにかかわらず、「勤務規則その他の定」により、一方的に承継を生じさせることは、文言上、明らかである。
 しかし、同条項は、従業者は、その[ ア ]によるにせよ、その[ ア ]に反してであるにせよ、職務発明に係る承継があったときには、「相当の対価」の支払を受ける「権利」を有することを明瞭に定めている。このように、従業者に「権利」として支払を受けることの認められた「相当の対価」の具体的な額を、その権利に関する義務者である使用者が一方的に定め得るとすれば、それは、法律上むしろ異様な状態というべきである。

2−15 この文章はある企業における職務発明をめぐる争いに関する判例の一部を引用したものである。5ヵ所の[ ア ]には同じ言葉が入るが、最も適当と思われるのはどれか。

(1) 指図  (2) 思惑  (3) 承諾  (4) 了解  (5) 意思

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正解は5
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ピックアップ事件の判例です。判例が取り上げられている場合、「あなたはどの言葉が適当と思うか」ではなく、「判例で使われていた言葉はどれか」という問題になります。「そんなこと知るか」と思うかもしれませんが、判例というものは、ものの善悪などに関する、「社会の判断を明文化したもの」なのです。
善悪というものはそれほど単純ではありません。人により意見が分かれることもままあります。そういう倫理観のぶれ・ずれを持ったままで重要な技術業務を行うということは危険です。
自分の倫理観とはずれた裁判判決が出ることもあるでしょうが、そういうときに、「あ、社会はそういう判断基準なんだ」と、まず最初に思えることが大切です。その後、「でもそれはきっと正しくない。世の中の人のためにならない」と思うのであれば、自分にできる内容で行動を起こせばいいのであって、「そんな馬鹿な判決、オレは知らん。オレはオレの信じるようにやる」ではいけません。ましてそのような考えで公共の仕事をするなど論外です。