平成15年度試験について Back
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平成15年度の技術士第一次試験について、私見を述べています。(2004.2.4更新)
INDEX
1.試験の内容・合格基準
2.出題ミスについて
3.試験の結果〜合格率など
4.教訓:一次試験の特徴と対応について
 4-1 一次試験は基礎知識の確認試験
 4-2 大学の「教科書」から出題される
 4-3 共通科目について
 4-4 基礎科目について
 4-5 専門科目について
 4-6 適性科目について
5.試験が終って


1.試験の内容・合格基準

一次試験は、2003年10月13日(月・祝日)に行われました。
一次試験の合格基準は以下のとおりです。合格基準の発表資料はこちら、配点はこちら
わかりやすいように、共通科目をのぞいて考えましょう。
合格条件は、以下の4条件をすべて満たしていることです。
 (1) 基礎科目 15問×1問1点=15点 40%正解=6問6点以上
 (2) 専門科目 25問×1問2点=50点 40%正解=10問20点以上
 (3) 適性科目 15問×1問1点=15点 50%正解=8問8点以上
 (4) 基礎と専門の合計(15点+50点=65点)で50%正解=33点以上

上記のすべてを満たしていることが合格基準です。逆にいうと、
 ●基礎正解6問(6点)未満
 ●専門正解10問(20点)未満
 ●基礎と専門の合計得点が33点未満
 ●適性正解8問(8点)未満

のどれかに該当するとアウトです。なお、共通科目は平均点以上であることが合格基準です。
合否判断は、前記合格基準を満たしているかどうかで決まります。
基礎と専門のところがわかりにくいかと思いますので、図表にしてみました。なお、図はNagaseさんに作成していただきました。ありがとうございます。

基礎科目正解数 専門科目正解数 判定 不合格根拠
5以下 (何問でも関係なし) × 基礎正解40%未満
6 13以下 × 基礎+専門で50%未満
6 14以上
7 12以下 × 基礎+専門で50%未満
7 13以上
8 12以下 × 基礎+専門で50%未満
8 13以上
9 11以下 × 基礎+専門で50%未満
9 12以上
10 11以下 × 基礎+専門で50%未満
10 12以上
11 10以下 × 基礎+専門で50%未満
11 11以上
12 10以下 × 基礎+専門で50%未満
12 11以上
13 10以上
(何問でも関係なし) 9以下 × 専門正解40%未満

なお、「基礎科目で0点の分野があると不合格」というウワサが流れていました。これは某受験参考書にその旨の記載があったのが原因のようですが、結果的にそのようなことはなかったようです。技術士会に直製電話で問い合わせ、「技術士会としてはそのような基準は設けていない」との答えをいただいてもいます。
ウワサはウワサに過ぎなかったようです。

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2.出題ミスについて

臨時掲示板での議論の中で、「これは出題ミスじゃないか」という意見がところどころで出ていました。そして結果的に、基礎科目の解析分野で1−3−3と1−3−4の2問が出題ミスと発表され、問題選択者すべてに点数が与えられました。プレス発表文はこちら
出題ミスの内容は、いずれもミスプリントでした。単純なミスプリントではありますが、これをミスプリではないと解釈して問題を解き、誤った答えを導いてしまった人もいました。そしてそのミスプリの修正が適切に受験生に伝達されませんでした。修正が伝達されなかった試験場も少なからずあったようです。
すなわち問題点は、
 (1)解答に重大な影響を与えるミスプリであった。
 (2)ミスプリの修正伝達が適切になされなかった(明瞭な不公平を生んだ)。
の2点です。
なお、船舶部門でも専門科目に出題ミスがありました。

また、15年度は二次試験でも出題ミスが2つありました。
1つは総合技術監理部門で、産廃として定められている廃棄物が、法改正で19種類から20種類に増えたにもかかわらず、「19種類」という選択肢を「正しいものはどれか」問題の正答として用意してしまい、結果として正解がなくなってしまったというものです。これは全問解答択一の中の1問であり、受験者全員に得点を与える措置がとられました(こちら)。
もう1つは、環境部門で、国指定鳥獣保護区が52箇所だったものが54箇所に増えていたのに、「52箇所である」という選択肢を「誤りはどれか」問題の中に入れていたため、正解(誤りである選択肢)が2つになってしまったというものです。これは20問中15問選択の択一問題であり、受験者全員ではなく、この問題を選択した受験者のみに得点が与えられました。

これまでの経緯から、数値が明らかに間違っていた場合、あるいは重大でかつフォローできなかったミスプリ以外はミスにはならないというのが技術士会の方針のようです。
すなわち、問題文や選択肢があいまいでわかりにくいとか、複数の解釈ができるといったことでは、なかなか出題ミスと認められないということです。

次に、出題ミスに対する救援措置(問題選択者のみに正解を与える)は適当だったのでしょうか。
これはミスが出た時点ですでに適当ではないに決まっています。ミスプリにより難解な計算をして、結局あきらめて他の問題を選択した人もいるでしょう。貴重な時間を浪費した悔しさはこの上ないことと思います。逆に、解析分野でわかる問題がなく、適当に3問選んで適当にマークして、たまたま2問拾った人もいるでしょう。これは全く公平とはいえません。
では、受験者全員に正解を与えるべきでしょうか。これとて公平ではありません。問題をそもそも選択しなかった人、場合によっては解析分野を放棄した人にまで得点を与えることになります。このほうがよほど不公平かもしれません。
結局、適切な対処などありはしないのです。不公平をできるだけ小さくする対処はしたのかもしれませんが、これについては技術士会に猛省を促したいと思います。

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3.試験結果〜合格率など

平成16年1月30日に一次試験合否発表がありました。
申込者数67,581人、受験者数56,873人、合格者28,808人で合格率は対申込者42.6%、対受験者50.7%でした。昨年度は同じく10.5%、15.0%でしたから、対受験者で3.4倍にもなりました。受験者数も14年度は24,000人だったのが15年度は57,000人と2.4倍ほどになっていますが、合格者は3,600人が28,000人と8倍近くに膨らんでいます。
少し細かく見てみましょう。受験番号から、適性のみ受験者とそれ以外の受験者、さらに共通科目までの受験者が区別できます。
なお、受験番号は、最初の2桁が部門、次のアルファベットが受験地、次の数値が受験種別(2は共通科目まで受験、3は適性のみ受験、0はそれ以外の一般受験)、その後の4桁の数値が各部門・受験地・受験種別ごとの通し番号です。さらに共通科目まで受験した場合は、その後に選択科目を表すアルファベットがつきます。
さらにこれをもとに、適性のみ受験者を除いた合格率を次の手順で推定してみました。
(1) 適性のみ受験者の番号が飛んでいる場合、これを受験して不合格だったと仮定。
  つまり適性のみ受験者は、申込者の全てが受験したと仮定。
(2) これから適性のみ受験者の合格率・受験者数を推定し、全体から減じて適性のみ受験以外の受験者数を推定

その結果をまとめたのが下表ですが、14年度はわずか6名だった共通科目まで受験しての合格者が、今年は317人(建設部門で133人)に達しています。学生の受験者が非常に増えたことを示していると思われ、実際学生の受験者はかなり増えたようです。
適性のみの受験者は全体で7,600人程度、建設部門では5,500人程度です。14年度は一般受験者より多いところが多かったのが、完全に逆転しています。
建設部門についてもう少し細かく見てみましょう。
適性のみ受験者の合格者は、14年度1,240人だったのが4.4倍にも膨れ上がっています。数年間の移行期間があったにもかかわらず、一次必須になってからおっとり刀で受験した既技術士が非常に多いことがわかります。
適性のみ受験以外の合格者は、14年度がわずか667人だったのが15年度は13,881人と20倍以上になっています。受験者数は14,300人ほどだったのが31,800人ほどと2.2倍になりました。一次が必須になったため二次試験受験組から仕方なくこちらに移行した受験生に加えて、若手を中心に一次試験受験の気運が高まっていることを示しています。
対受験者合格率は、適性のみ受験を除くと、全体・建設部門ともに43.7%です。14年度は建設部門で推定4.7%でしたから、何と9倍以上の合格率アップになっています。

部門 申込者数 受験者数 合格者数 対受験者推定合格率
合計 共通
受験
適性
のみ
受験
一般 全体 適性のみ受験 適性のみ受験以外
飛び
番号数
推定受
験者数
推定
合格率
推定受
験者数
推定
合格率
機械 2,008 1,621 1,025 27 109 889 63.2 11 120 90.8 1,501 61.0
船舶 24 19 10 0 1 9 52.6 0 1 100.0 18 50.0
航空宇宙 78 59 39 1 8 30 66.1 1 9 88.9 50 62.0
電気電子 3,539 2,877 752 7 197 548 26.1 20 217 90.8 2,660 20.9
化学 463 373 175 5 30 140 46.9 2 32 93.8 341 42.5
繊維 67 59 37 0 4 33 62.7 0 4 100.0 55 60.0
金属 252 215 101 1 21 79 47.0 4 25 84.0 190 42.1
資源工学 43 35 30 0 5 25 85.7 1 6 83.3 29 86.2
建設 44,821 37,833 19,370 133 5,489 13,748 51.2 566 6,055 90.7 31,778 43.7
水道 4,921 4,189 2,172 20 571 1,581 51.9 64 635 89.9 3,554 45.0
衛生工学 1,555 1,272 905 6 133 766 71.1 8 141 94.3 1,131 68.3
農業 2,103 1,822 1,298 19 348 931 71.2 43 391 89.0 1,431 66.4
林業 546 444 173 1 71 101 39.0 8 79 89.9 365 27.9
水産 290 248 104 1 36 67 41.9 1 37 97.3 211 32.2
経営工学 336 289 110 4 28 78 38.1 3 31 90.3 258 31.8
情報工学 1,410 1,154 555 23 94 438 48.1 10 104 90.4 1,050 43.9
応用理学 1,955 1,726 616 1 397 218 35.7 25 422 94.1 1,304 16.8
生物工学 401 313 213 36 3 174 68.1 0 3 100.0 310 67.7
環境 2,769 2,325 1,123 32 86 1,005 48.3 7 93 92.5 2,232 46.5
(合計) 67,581 56,873 28,808 317 7,631 20,860 50.7 774 8,405 90.8 48,468 43.7

これほど合格率がアップしたのはなぜでしょうか。次のようなことが考えられます。
 (1) 試験問題が簡単になった。
 (2) ボーダーラインが下がった。
 (3) 受験者のレベルが上がった。

(1)については、記述問題がなくなったことにより、択一得意・記述苦手の人には有利に働きましたが、択一問題の難度が下がったとは思えません。適性科目は明らかに難度が上がりましたし、基礎科目は分野・問題による難度のバラツキが出てきました。こう考えると、「試験問題が簡単になった」とはそう安易には言えないと思います。
(2)については、基礎・専門科目のそれぞれでのボーダーが50%から40%に引き下げられ、点数の偏りを是認するようになりました。これが合格率押し上げに働いていることは確実です。事前の技術士会の見込みでも、10%以上の合格率跳ね上がりを期待していたようです。
(3)についても、確かにあると思われます。理由は次のようなものが考えられます。
●二次試験受験レベルであった技術者が一次試験に大挙して流れ込んできた。
●大卒でなく国家資格も持っていない受験者で、共通科目のハードルで受験断念した人がかなりいたと思われ、これが結果的にレベルを押し上げた(失礼な言い方に聞えるでしょうが、現実だと思います)。


この高い合格率を前にして、「失望した」というような意見がいろいろな掲示板などで多く見られました。そうでしょうか。私は失望することはないと思います。
もし、低い合格率の中に「希少価値」を期待していたのなら、それは勘違いあるいは身勝手です。資格は自慢するためにあるのではありません。契約において、あるいは社会に対して、専門的な力を持っていることを証明するためにあるのです。ならば多いほうがよりたくさん社会の役に立てるのですから、けっこうなことではありませんか。技術士は公益の確保を責務としていることを忘れてはいけません。自分の雇用条件を有利にするためには、より世の中のためになることでも手控えてほしいというのであれば、それはただのエゴではないでしょうか。
合格ラインが下がって合格者の技術レベルが落ちたことを嘆いているのであれば、一理あるかもしれません。合格ラインが下がったことによって、昨年度までなら不合格であった人がかなり合格になっているのは現実だからです。しかし一次試験は二次試験受験資格の一つにすぎないのです。技術士補登録したとしても、指導技術士の補佐以外の社会的特典はありません。一次試験合格が技術者としてのやる気を引き出し、二次試験という目標に向かって精進することで技術力がつくことが期待できるのならば、できるだけ多くの人にその機会を与えればいいではありませんか。
受験者数を見ても、その内訳を見ても、従来は「技術士なんて雲の上の話」「俺にはまだまだ先の話」であった技術士資格取得への道が、若い技術者・学生諸君が積極的に挑戦するものへと変化していることがわかります。私は結構な話だと思います。
合格したのはあなた自身の努力の結果です。人と比較しても仕方ありません。堂々と胸を張って一次試験合格を喜び、それを二次試験や日常の業務への取組みのエネルギーに変えていきましょう。

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4.教訓:一次試験の特徴と対応について

 私はこのサイトで一次試験対策のページを作成するに当たって、一次試験をそれなりに勉強し、検討しました。そして本番の15年度試験を経て、自分の認識に自信を持った部分と、認識を改めた部分がありました。そういった雑感を、ここでまとめてみたいと思います。

  1. 一次試験は基礎知識の確認試験
    「平成15年度技術士第一次試験実施大綱」(こちら)に、「一次試験試験の程度は、共通科目については4年制大学の自然科学系学部の教養教育程度、基礎科目及び専門科目については、同学部の専門教育程度とする。」と明記されています。
    すなわち、一次試験はエンジニアリング系大学の専門課程を修了したと同等程度の基礎知識を有しているか否かを確認する試験です。
    なぜいまさらこんなことを言うかというと、「どんな問題が出るか」、「正解は何か」がこの点に集約されているからです。

  2. 大学の「教科書」から出題される
    今年度の問題で正解が何かで議論になったものに、建設部門専門科目4−4があります。これは次のような問題です。

    4−4 溶接に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

    (1) 母材(接合されるべき材)と変わらない継ぎ手強度を得ることが出来る。
    (2) 溶接部の熱影響は複雑であり、溶接以外の接合方法に比べて応力の流れが複雑でかつ明確でない。
    (3) 設計、施工の自由度が大きく、適用しうる板厚の範囲が広い。
    (4) 外形的あるいは熱影響による不良な溶接により、応力集中箇所が出来やすい
    (5) 一体化した構造を作りうるので、減衰性の低下を招きやすい

    この問題の正解が(2)か(5)かでずいぶんと議論されました。
    (2)については、溶接の熱影響を考え、残留応力など設計計算で汲み取りきれない複雑さがあるので、この記述は正しいという意見がありました。それに対して、外力に関しては応力の流れは複雑ではないといった反論もありました。
    また(5)については、「一体化した構造を作りうる」という記述が間違いでは、とか、溶接のほうが減衰性が高くなる(振動が収まりやすくなる)はずだという意見がありました。それに対して、ボルト継ぎ手は摩擦・すべりによるエネルギー減衰が・・・・とか、全体重量が重くなるので振動しにくくなるのではといった反論がありました。
    しかし、掲示板でAlpa-Omegaさんが次のような情報をくださいました。
    この問題についてですが、大学時代(10年も前ですが)に使っていた教科書で以下のように記述されてます。
    伊藤学著『大学講義シリーズ11 鋼構造学』(コロナ社) 「溶接の特徴」の項より

    ……機械的接合方法であるリベットあるいは高力ボルト接合と比較して次のような利点がある。
    連続的接合であるので、応力の流れが概して円滑である。

    ……構造上の特徴から次のような点に注意しなければならない。
    むだのない、一体化した断面に作りうるということは、構造物あるいはその構成部材における剛性の不足や振動減衰性の低下を招きやすい。
    これに対して、「いや、教科書ではそう書いてあるかもしれないが、実際は違うぞ」という反論はあるでしょうが、おそらくこれが正解であることは覆らないと考えます。
    一次試験の問題は、技術士会から依頼された作成者が作ると思われますが、この問題を技術士会に提出するときには、正解がどれかということと、その根拠としての問題出典を添えるはずです。
    このことと、14年度の一次試験の後、「大学で習っていない内容の問題が出ている。作成者は大学で何を教えているかを知らないのではないか。大学関係者に出題させるべきだ」という意見が技術士試験制度審議会(確かそういう名前)で出されていたことを考え合わせると、15年度の試験問題は、全てあるいは大部分が「大学の教科書」からの出題であったと思われます。
    大学では基礎知識を教えますから、例外的な部分はあまり入れずに一般論を広く浅く教えます。つまり、極論すれば、実現場での様々な例外やそれに対する技術、あるいは各技術者の経験則とは無関係に、「大学の教科書には何と書いてあるか」を問う試験だと言うことができるでしょう。
    このように書くと憤慨なさる方もおられるでしょう。
    学生ならこれでいいかもしれないが、社会人技術者(特に熟練者)をあまりにもないがしろにしているのではないか。国は、経験豊かな熟練技術者を切り捨てようとしているのか。
    これは私の素直な感想です。私は技術士制度改定について、競争原理の積極的な導入による質の向上をはかる点で基本的には賛成していますが、その実施にあたって上記のような矛盾点あるいは問題点が顕在化している(あるいはしつつある)と思うのです。
    このような思いと、「みんな、早く技術士になって競争しよう」という思いが、このサイトを運営する原動力になっています。
    それはともかく、良くも悪くも現実は現実です。
    技術士会では、学生用と一般(社会人技術者)用の2種類の一次試験を実施してはどうかという案が検討されているようです。これには大いに賛成ですが、では16年度からさっそく実施されるかというと、そんな保証はありません。
    したがって、上記のような現実をまずは賛否を別にして認識し、それに対処するべきではないかと思います。

  3. 共通科目について
    共通科目は、大学の教養課程程度とされています。問題を見ると、おおむねその通りかなと思います。
    合格基準が「平均点以上」というのは、「なぜこれだけ相対評価?」と思いますが、大学入試合格程度の力があれば、平均点以上は取れるのではないかと思います。
    厳しい言い方かもしれませんが、専門に近い科目で歯が立たないとすれば、逆に自分が現在持っている技術力が、経験則の上にのみ立っている、非常に応用の利かないものであるということの傍証と受け止め、勉強に取り組むべきかと思います。
    14年度は、共通科目受験者の中で一次試験に合格したのはわずか6人という結果でした。
    15年度は学生受験者が増えたようですので、もう少し合格者が増えるのではないかと思います。
    この科目の勉強法は、高校の教科書で7割程度、できれば大学教養課程の教科書でも、というところかと思います。

  4. 基礎科目について
    大学専門課程程度の科学技術全般に関する基礎知識を問います。
    15年度は解析分野がぐっと難しくなりました。と同時に、やさしい問題とむずかしい問題の差が広がったように思います。
    また、私が基礎科目対策として示した「覚えるべき知識」、あるいは模擬試験で問うた知識のレベルに比較して、もう一歩踏み込んだレベルの問題が出たと思います。
    試験直前に「これだけ覚えてシート」を提示しました(こちら)が、本当に「これだけ」では解ける問題は少なかったと思います。これに書いてある事項をベースに、専門書などでもう一歩踏み込んだところまで目を通したり勉強した人は、高得点できたのではないかと思います。また、自然科学や工学など科学技術一般に関する一般知識・雑学の豊富な人・興味のある人も高得点をあげられたと思います。
    確かに難度の高い問題はありますが、科学技術全般に関する知識がそこそこにあれば、6問(40%)は比較的楽に取れると思われます。特に大学を卒業して間もない人には、得点が取りやすい問題でしょう(遊んでばかりで抜け道卒業したような人は別)。
    やはり国家試験だけあって、テクニックだけ、あるいは付け焼刃の知識だけで切り抜けるのはなかなか難しいようです。最低限の知識を身につけ、さらに一歩踏み込んだ知識も持っておく必要があるでしょう。
    そのためには、次のような対策が考えられます。
    (1) 大学で使っているテキストなどを用いて勉強する
    出題ネタ本を勉強すれば、ほぼ確実に問題範囲はカバーできます。ただし大変なボリュームになります。
    出題されそうな事項を拾って要約したような資料が作れるといいのですが、私がそこまで手が回るかどうか自信がありません。

    (2) ある程度ヤマをはって、段階的に勉強する。
    5割取れればいいわけですから、出題されそうな事項を絞りこんで(ヤマをはる)、それに関する最低限の知識を身につけた上で、さらに専門書籍やインターネットで知識を広げておくという方法です。
    絞込みと最低限の知識は、たとえば今年度作成した「これだけ覚えてシート」でも、解析分野を除けば十分だと思います。それ以外の事項に関する問題も出ましたが、5割取れればいいのですから、全部カバーする必要はありません。
    そして知識を広げるには、インターネットの活用がお勧めです。専門書を買って、膨大な記述の中から知識を拾い出すより、はるかに効率よく知識を吸収できます。


  5. 専門科目について
    昨年度に比較して、問題数が2.5倍になりましたが、予想通り建設部門の各選択科目からおおむね出題されていました。
    難度もそこそこに高かったと思いますが、全体に選択肢記述が淡白な感じを受けました。言い換えると、記述が大雑把で、読んだときの意味の解釈に幅ができうるような記述した。詳述すれば文意の解釈の幅は小さくなりますが、長々とした記述になります。
    選択肢記述をいいかげんに作ったのでしょうか。そうではないと思います。おそらく、大学で使っているテキストなどの出典から、記述をほぼそのまま引用したのではないかと思います。典型的な例が前述の建設部門専門科目4−4(溶接)の問題です。
    したがって極論すれば、選択肢記述の正誤について、自分の知識や経験から考えて判断するよりも、教科書に何と書いてあるかで正解を判別するほうが確実ということになります。
    しかし、いくら試験とはいえ、これではあんまりですし、「本の丸暗記」が長けているなど技術士になろうとする者の資質として望ましいものではありません。
    大学で教えている内容は基本原則的なことであり、細かな例外や現場での運用、先端技術まではカバーしていません。あくまで原理原則です。そして専門科目に限らず一次試験は、こういった原理原則を知っているかどうかを問うものです。
    したがって、「本当の基本原則を学習する」ということをよく理解した上で、大学教科書あるいはハンドブック的な基礎知識を網羅した文献で学習するのがいいでしょう。
    この学習方法やお勧めの文献といった情報、さらには勉強に使えるテキストなどは、今後、皆さんのご協力(テキストの紹介など)をいただきながら充実させていきたいと思っています。

  6. 適性科目について
    ほとんどの人が合格基準をクリアできた昨年までと違って、今年は平均得点がぐっと下がったと思われます。
    非常に興味深いのは、「あんなの簡単だった。勉強なんてしなくても10点以上絶対取れる」という人と、「むずかしかった。どれが正解と言われてもどうとでも取れるような問題が多かった」という人に分かれる傾向があることです。
    結論から言うと、この科目も「教科書」から出されています。「教科書」としては、たとえば「科学技術者の倫理〜その考え方と事例:第2版」(日本技術士会訳編,H14.3.31発行,丸善)があります(出版案内はこちら)。ほぼ丸写しで問題文に使われている問題もあります。このテキストなどは、アメリカ人の著作であり、それゆえに日本人の発想とかみ合わないところや、文章の言い回しがしっくり来ないところがあります。
    しかし、日本人が作ったこれという技術者倫理のテキストがない(と技術士会が判断している)こと、そしておそらく資格相互承認・ワシントンアコードその他の国際化の流れがアメリカン・スタンダード(要は、アメリカの考え方・価値観・倫理観に世界が合わせなさいという、一種の帝国主義)で進んでいることによるものでしょう。
    したがって、試験の正解は受験者個人の倫理判断を聞いてはいないのです。テキストには何と書いてあるかを聞いているのです。そもそも個人の倫理観に点数をつけて優劣を決められるものでもないでしょう。ここのところを勘違いしないことです。
    典型的な例をあげます。15年度適性科目の問題2−5(公衆の定義)です。
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    課題4
     「公衆の安全、健康、及び福利を最優先すること」は、技術者倫理で最も大切なことである。さて、公衆は技術業の業務によって危険を受けうるが、技術者倫理における一つの考え方として、「公衆」は、[ イ ]である」というものがある。
     2−5 [ イ ]に入るものとして、最も適当と思われるものはどれか。
      (1) 国家や社会を形成している一般の人々
      (2) 背景などを異にする多数の祖織されていない人々
      (3) 専門職としての技術業についていない人々
      (4) よく知らされた上での同意を与えることができない人々
      (5) 広い地域に散在しながらメディアを通じて世論を形成する人々

    この問題の正解は(4)と思われます。しかし臨時掲示板では議論が分かれました。
    (1)や(2)、(3)なども正解っぽいですね。そのどれを選ぶかは各自の「感覚」のようなところがあります。
    しかし、上記テキストp.55〜p.56にはこの問題の考え方や答えが明記されています。この問題は、
    インフォームド・コンセントのことを聞いているのです。テキストから引用します。
    「より妥当な公衆の定義は、人々を公衆の一部とするものは、技術行の製品及びサービスの影響に対して、自由なインフォームド・コンセントを与える立場になく、それらに影響されやすいという主張と共に始まっている。」
    インフォームド・コンセント(informed-consent)とは「説明と同意」のことで、もともと医療現場で患者が自分の病気と医療行為について、知りたいことを“知る権利”があり、治療方法を自分で決める“決定する権利”を持つことをいいます。個人主義の意識が高いアメリカで生まれ、80年代半ばから日本でも必要性が認識されてきています。
    典型的なのはがん治療で、がんであることを告知し、その後に取り組む治療法について、その効果と副作用、リスクなどを全て洗いざらい説明した上で、治療を受ける(同意する)かどうかを決めてもらうという手順がインフォームド・コンセントです。
    さらに、テキストには1986年のチャレンジャー爆発事故を引用して、次のようにあります。なお、この事故は、O−リングが弾性を失い、シールがうまくいかなくなったために燃料が漏洩、引火したことが原因でした。

    「宇宙飛行士は、欠陥のあるO−リングによる爆発の危険性に関しては公衆の一部である。何故なら、その危険性の知識を全く持たなかったからである。彼らはブースター・ロケットの氷の情報に関しては、公衆の一部ではない。彼らはこの危険を知っていて、内在するリスクに対して、明確に知らされた上での同意をしているからである。」
    英文和訳の書籍であるため、独特の言い回しが解釈しにくさを生んでいますが、要は、いいこと・悪いこと、長所・短所、リスクなどを総合的に勘案して自分で判断することができるだけの、専門的知識・情報・考える時間がないと、無力・受動的にならざるを得ない、その状態が公衆であるということです。
    このようなことを知った上でもう一度問題文を見ると、「よく知らされた上での同意」とはインフォームド・コンセントのことだとわかります。「与える」という言葉は日本語として違和感がありますが、上記文献記載をそのまま引用したのだと思われます。つまりは、「インフォームド・コンセントを与える立場にない」→「よく知らされた上での同意を与えることができない」と「直訳」したのではないかと思われます。
    ここまできっちり考えなくても、公衆の定義として「インフォームド・コンセントを与えられるかどうか」という考え方があることを知っておれば、直ちに正解は特定できます。このことを知らないと、たとえば「『よく知らされた上での同意を与えることができない』→社会資本整備に同意しない人のこと。公衆には同意する人もいるから(4)は違う」という「珍答」が出てきてしまいます。
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    この例に典型的に現れているように、15年度の適性科目は、14年度までのように自分の倫理観・常識感覚で解けるという試験ではなくなりました。この点、私は完全に見誤っていました。深くお詫び申し上げます。
    なぜこんなに変わったんだろうと考えると、うがった見方かもしれませんが、13・14年度は、制度移行期において既技術士を一次試験に合格させる「サービス期間」だったのかなと思います。移行期が終って、タイムサービスも終ったということではないでしょうか。
    一方、15年度の適性科目が常識感覚で解けた人もいます。決して自慢するわけではなく私も30分ほどで12問の正解でした。上記2−5も正解しました。私の場合は、自分の倫理観は横において、「これは試験。出題者は何と答えさせたいのか」という発想で問題に向かいました。また私はISO9000sやCALS/ECなどの導入を通して、またプライベートな交流なども通して、アメリカン・スタンダードの感覚(アメリカ人的発想)をある程度知っているという自負があります。だから、「オレはこれが正しいと思う。こうあるべきだ」ではなく、「きっとこれが正解だ」という解き方になるのです。
    逆に点数を落とした人の中には、「後で見直したときに考えが変わって、ことごとく間違ったほうに直してしまった」という人が少なからずおられます。実務経験や個人的倫理観が、マイナス方向に働いてしまったのだと思います。これは見方を変えれば、「正解は教科書に書いてあること」という原則を知らなかった、そして教科書には何と書いてあるかも知らなかったため、正解がフラついてしまったことを示しています。
    用語の定義や細かな実例に対して、体調や精神状態に関わらず自分の倫理観に基づき確固として同じ答えを出せる人はあまり多くないと思います。そもそもそのようなことを試験は求めていません。
    以上のようなことから、適性科目への対処法は次のようにまとめられます。
    (1) この試験は教科書に何と書いてあるかを聞いているということを認識する。
    (2) 教科書を特定し、その内容を勉強する。

    この2点です。
    内容が倫理(理念・信念にもつながる)であるだけに、「この本に書いてあることを正解にしなさい」と言われているようで釈然としない点もありますが、とりあえず試験に合格したいと思うのならば、このような技術者倫理体系があると割り切って覚えるしかないと思います。

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5.試験が終って

 とにもかくにも、15年度の一次試験は終りました。
 解答案も、16年度からは正解公表になったため、臨時掲示板をたててにぎやかに論じあうこともなくなるかもしれません。ただ、臨時掲示板も正解が何かを議論する中で、大いに勉強になる場であったと思いますので、正解公表が単に「何番が正解」というもので解説なしであれば、どこかで議論して掘り下げたいと思います。
 めでたく合格された人は、次の目標である二次試験に目を向けましょう。経験年数が規定に達している人は早速受験準備を、そうでない人は経験年数に達すると同時に二次試験受験と一発合格を狙い、体系的応用技術力の育成経験論文ネタ作りを意識しつつ、目的意識をもって日々の仕事に向かいましょう。試験勉強ばかりで仕事をそっちのけにしてはいけません。あくまで仕事の中で応用技術力を養うようにして、自分が仕事を通して経験したことを、知識体系の中で位置づける訓練をしましょう。具体的には、新しい知識や経験を身につけたら、ガイドブックのような知識に関する文献に目を通し、基礎理論などをしっかりと理解するよう心がけましょう。なお、こういう勉強には基準・指針等は役に立たないことが少なくありません。規格・標準・仕様等の背景となる基礎理論についても説明してあるのならいいですが、それでなければ背景となる知識・理論もなしに規格・仕様を丸覚えすることになって、マニュアルエンジニア化してしまうだけです。
 惜しくも涙を飲んだ人は、リベンジを目指してもう一度がんばりましょう。私も、15年度の結果を教訓に、サイトの内容をさらに更新して応援します。

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