筆記試験対策〜必須科目(問題T) 最終更新:2022.06.29
TopPage 試験概要 過去問題 出願対策 問題U 問題V 口頭試験 体験記

=CONTENTS=
1.出題内容
2.問題対策
3.主要テーマの解説

 必須科目(問題T)について、建設部門を中心に記しています。
 出題内容の予想もしていますが、これは「絶対こうなる」というものではなく、あくまで私の予想です。ただ、技術士会から公表された資料を素直に読むとこういうことだよね、という、それなりに根拠のあるものではあります。
 なお、受験対策は人それぞれです。それぞれの立場で、ポイントは変わってきます。また、若年層・熟年層でも変わってきます。 うのみにするのではなく、参考にできるところは参考にするというスタンスでお読みください。

答案用紙はA4サイズ・600字詰めです。
模擬練習用答案用紙を用意しましたので、お使いください。
ダウンロード時は1ページですが、1枚目を超えると自動的に2枚目が現われます。
なお、この答案用紙はすごろくさんよりご提供いただいたものです。
問題1答案用紙

1.出題内容

 必須科目(問題T)は、2012年度までは「部門一般」「建設一般」などと言われる記述問題(600字詰め答案用紙3枚)だったのが、2013〜2018年度は択一問題(マークシート方式5択)となりました。そして2019年度からまた記述問題(答案用紙枚数も以前と同じ600字詰め3枚)になりました。
問題Tは、「技術部門全般にわたる専門知識、応用能力、問題解決能力及び課題遂行能力に関するもの」を問う問題とされており、これらの概念、出題内容および評価項目もかなり明確に示されています。さらに評価項目のそれぞれがどういったものをいうのかは、前頁の「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」の中に定義づけられているため、概念や評価項目について、どういう意味なのかをあれこれ推測する余地はかなりなくなっているといえるでしょう。
問題Tの内容

概念 専門知識
専門の技術分野の業務に必要で幅広く適用される原理等に関わる汎用的な専門知識
応用能力
これまでに習得した知識や経験に基づき,与えられた条件に合わせて,問題や課題を正しく認識し,必要な分析を行い,業務遂行手順や業務上留意すべき点,工夫を要する点等について説明できる能力
問題解決能力及び課題遂行能力
社会的なニーズや技術の進歩に伴い,社会や技術における様々な状況から,複合的な問題や課題を把握し,社会的利益や技術的優位性などの多様な視点からの調査・分析を経て,問題解決のための課題とその遂行について論理的かつ合理的に説明できる能力
出題内容 現代社会が抱えている様々な問題について,「技術部門」全般に関わる基礎的なエンジニアリング問題としての観点から,多面的に課題を抽出して,その解決方法を提示し遂行していくための提案を問う。
評価項目 技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち,専門的学識,問題解決,評価,技術者倫理,コミュニケーションの各項目

評価項目 筆記試験における
評価内容
T U-1 U-2 V
専門的学識 基本知識理解
理解レベル   @基本 @業務  
問題解決 課題抽出 @     @
方策提起 A     A
評価 新たなリスク B     B
技術者倫理 社会的認識 C      
マネジメント 業務遂行手順     A  
コミュニケーション 的確表現
リーダーシップ 関係者調整     B  
※表中の丸数字は設問番号です

  1. 出題形式
    2019年度の問題Tの問題文を比較してみましょう。

    (建設部門 問題T-1) (建設部門 問題T-2)
    我が国の人口は2010年頃をピークに減少に転じており、今後もその傾向の継続により働き手の減少が続くことが予想される中で、その減少を上回る生産性の向上等により、我が国の成長力を高めるとともに、新たな需要を掘り起こし、経済成長を続けていくことが求められている。こうした状況下で、社会資本整備における一連のプロセスを担う建設分野においても生産性の向上が必要不可欠となっていることを踏まえて、以下の問いに答えよ。


    (1) 建設分野における生産性の向上に関して、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
    (2) (1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
    (3) (2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述ベよ。
    (4) (1)〜(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
    我が国は、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象に起因する自然災害に繰り返しさいなまれてきた。自然災害への対策については、南海トラフ地震、首都直下地震等が遠くない将来に発生する可能性が高まっていることや、気候変動の影響等により水災害、土砂災害が多発していることから、その重要性がますます高まっている。こうした状況下で、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・経済社会の構築に向けた「国土強靭化」(ナショナル・レジリエンス)を推進していく必要があることを踏まえて、以下の問いに答えよ。

    (1) ハード整備の想定を超える大規模な自然災害に対して安全・安心な国土・地域・経済社会を構築するために、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
    (2) (1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
    (3) (2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
    (4) (1)〜(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。

    (機械部門 問題T-1) (機械部門 問題T-2)
    我が国は、今後労働人口が減少する状況の下で、技術的な国際競争力を更に高めていく必要がある。このため、機械製品には高い性能と多くの機能が求められると同時に、ユーザーの使用条件に見合った製品仕様の多様化への対応などが必要となってくる。そこで、ものづくりの観点からこれを実現する1つの考え方として従来の「擦り合わせ」を中心とした相互依存に基づく手法から、「組み合わせ」を中心とした構成要件の定義に基づく手法への転換が挙げられる。このような状況を踏まえて、以下の問いに答えよ。

    (1) 機械製品のものづくりの手法を上記の考え方に沿って転換する場合に必要な検討項目を、技術者としての立場で、多面的な観点から複数の課題を抽出し分析せよ。
    (2) 抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
    (3) 解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
    (4) 業務遂行において必要な要件を技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述ベよ。
    持続可能な社会実現に近年多くの関心が寄せられている。例えば、2015年に開催された国連サミットにおいては、2030年までの国際目標SDGs(持続可能な開発目標)が提唱されている。このような社会の状況を考慮して、以下の問いに答えよ。




    (1) 持続可能な社会実現のための機械機器・装置のものづくりに向けて、あなたの専門分野だけでなく機械技術全体を総括する立場で、多面的な観点から複数の課題を抽出し分析せよ。
    (2) 抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する解決策を具体的に3つ示せ。
    (3) 解決策に共通して新たに生じるリスクとそれへの対策について述べよ。
    (4) 業務遂行において必要な要件を機械技術者としての倫理の観点から述べよ。

    赤字の部分は問題T-1でもT-2でも同じです。つまり出題テーマが変化するだけで各設問で問われることは変わらないのです。
    さらに2020年度の問題も見てみましょう。

    (建設部門 問題T-1) (建設部門 問題T-2)
    我が国の総人口は、戦後増加を続けていたが、 2010年頃をピークに減少に転じ、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(出生中位・死亡中位推計)によると、2065年には8,808万人に減少することが予測されている。私たちの暮らしと経清を支えるインフラ整備の担い手であり、地域の安全・安心を支える地域の守り手でもある建設産業においても、課題の1つとしてその担い手確保が挙げられる。



    (1)それぞれの地域において、 地域の中小建設業が今後もその使命を果たすべく担い手を確保していく上で、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。

    (2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を 1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

    (3)すべての解決策を実行した上で生じる波及効果と、新たな懸案事項への対応策を示せ。

    (4)上記事項を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。
    我が国の社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備され、建設後50年以上経過する施設の割合が今後加速度的に高くなる見込みであり、急速な老朽化に伴う不具合の顕在化が懸念されている。また、高度経済成長期と比べて、我が国の社会・経済情勢も大きく変化している。
    こうした状況下で、社会インフラの整備によってもたらされる恩恵を次世代へも確実に継承するためには、戦略的なメンテナンスが必要不可欠であることを踏まえ、以下の問いに答えよ。

    (1)社会ー経済情勢が変化する中、老朽化する社会インフラの戦略的なメンテナンスを推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。

    (2) (1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

    (3) (2)で示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。


    (4) (1)〜(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。

    赤字の部分は問題T-1でもT-2でも同じです。2019年度と同じく、問われることはほぼ同じであることがわかります。ただ設問3のみ、波及効果が入ってきたり「リスク」ではなく「懸案事項」という言い方をしたりしています。リスクというか懸案事項というかは言葉だけの問題だと思ってもいいですが、波及効果を書いたり書かなかったりするのはバリエーションと言えますから、答案を準備する時には波及効果まで考えておいた方がいいでしょう。

    結局、問題Tで問われるのは、
     設問1:課題の抽出
     設問2:解決策の提示
     設問3:波及効果と新たなリスクおよびその対策
     設問4:倫理・持続可能性
    ということですね。

  2. 評価内容(コンピテンシー)の内容
    1. 基本知識理解(専門的学識)

      答案全般について、具体的な事例や施策、技術、取組み、法令等について記述し、ぼんやりした理解ではなく、知識を持っていることをアピールする

      コンピテンシー「専門的学識」の定義は以下のとおりです。
      • 技術士が専門とする技術分野(技術部門)の業務に必要な,技術部門全般にわたる専門知識及び選択科目に関する専門知識を理解し応用すること。
      • 技術士の業務に必要な,我が国固有の法令等の制度及び社会・自然条件等に関する専門知識を理解し応用すること。

      受験部門に関する社会的重要テーマに関わる法令施策等や社会経済、最新の技術の現現状といったものをしっかり知っていて理解しているか、という視点で採点すると考えられます。建設部門であれば、たとえば近年の顕著な災害について、どういった災害でどのような被害があったのか、それはどういった原因等により引き起こされたのか、なぜ災害が激甚化しているのか、それに対してどう対処しようという施策や法整備等が進められているのかといった知識ですね。具体的に言えば、水災害意識社会再構築ビジョンなどの具体的な取り組みを上げている答案と、そういった具体的取り組みを上げられていない答案で差が付くということです。

    2. 課題抽出(問題解決)〜設問1

      与えられたテーマについて、問題をあげて分析し、問題解決のためになすべきこと(課題)を抽出する

      コンピテンシー「問題解決」の定義は以下のとおりです。
      • 業務遂行上直面する複合的な問題に対して,これらの内容を明確にし,調査し,これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
      • 複合的な問題に関して,相反する要求事項(必要性,機能性,技術的実現性,安全性,経済性等),それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で,複数の選択肢を提起し,これらを踏まえた解決策を合理的に提案し,又は改善すること。

      また問題文は以下のようなものです。
      設問1:(テーマ)に関して、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ

      以下の3ステップで課題を抽出しましょう。
      @問題をあげる
        困った状況、あるべき姿とのギャップを問題としてあげます。
      A問題を分析する
       問題の発生原因・機構を分析します。@→Aと述べてもいいし、A→@でもいいでしょう。
      B課題を抽出する
       問題分析結果から、 問題解決のために何をなすべきかを導きます。この「なすべきこと」が課題です。
       ちなみに、その「なすべきこと」、課題の実現策が解決策になります。

      なお、多面的に課題をあげることが求められているので、専門技術的なことばかりでなく、右図のように多様な視点で問題(あるべき姿と現実とのギャップ)を抽出し、その原因等(なぜ・どのようにその問題が発生しているのか)を考察することが求められます。
      つまり、なぜ災害が激甚化しているのかとか、老朽化インフラが今のままでは適切に維持管理更新されないことが懸念されるのはなぜかとか、担い手が不足しているのはなぜなのかといったことについて、貧弱な知識だけで「自分はこう思う」と言うような居酒屋議論的なものをしてはダメで、しっかり勉強することが必要です。
    3. 方策提起(問題解決)〜設問2

      抽出した課題を実現する方策を提案する

      問題文は以下のようなものです。
      設問2:(設問1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ

      課題を解決する(抽出したなすべきことを実現する)具体的な方策を提案します。
      ここで導き出した解決策は、ひとりよがりなものではないことが重要です。基本的には国等が実際に提唱している施策や取り組まれていることに沿ったものがいいでしょう。これは国等の施策に迎合するとか、鵜呑みにするということではなく、しっかり理解して解説するということです。言い換えると、具体的な施策のベースには基本となる考え方・方向性があって、それにはそれによって解決しようとしている課題(特に課題解決を難しくしているボトルネックの解消・最小化)があり、さらにそのベースには実際に発生している問題があるわけです。施策等をしっかり掘り下げて、施策→方向性→課題と理解することで、逆に課題→解決の方向性→具体策というロジックで飛躍なく説明できるのです。
      なお、2019年度問題では解決策を複数あげることを求められています。2020年度も同じかはわかりませんが、解決の方向性はひとつでいいと思うので、その下に複数の解決策をあげられるようにしておくといいでしょう。たとえば「予防保全型の維持管理」という方向性のもと、アセットマネジメント・インフラ長寿命化やICTを活用したインフラロボットによる点検などですね

    4. 新たなリスク(評価)〜設問3

      設問2であげた解決策を実現するにあたって考えられる「新たなリスク」をあげる

      コンピテンシー「評価」の定義は以下のとおりです。
      • 業務遂行上の各段階における結果,最終的に得られる成果やその波及効果を評価し,次段階や別の業務の改善に資すること。

      また問題文は以下のようなものです。
      設問3:(1)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ
      設問3:(2)解決策を実行した上で生じる波及効果と、新たな懸案事項への対応策を示せ

      波及効果については、課題が解決することによって生まれてくる波及効果ですから、課題が解決することそのものではなく、それによって次に期待できるようなことなどが良いでしょう。例えば2020年度建設部門問題T-1では、課題が解決するということは、地域の中小建設業が使命を果たすべく担い手を確保するということが実現するということです。その結果期待できる効果としては、担い手がちゃんと確保できているからこそできることなので、例えば災害時の対応がしっかりできるとか、雇用拡大によって地域活性化に寄与するとか、そういった事を書けば良いのではないかと思います。
      次に新たなリスク・懸案事項ですが、@解決策を実行したがために新たに生まれて来る問題・リスク(二次リスク)あるいはA解決策の実現を妨げるようなボトルネック(その解決策を実行しようとするがために出てくる問題)をあげるといいでしょう。解決策を実行してもまだなお残る問題・リスク(残留リスク)は趣旨から外れます。
      @解決策が実現したがために出てくるマイナスの副作用的なもの、すなわち二次リスク…たとえばICT活用に伴う技術の空洞化やAI活用に伴うブラックボックス問題など
      A解決策の実現を妨げるハードル・ボトルネック…たとえばICT活用における初期導入コストの制約など
      ただ、こういった問題についてもひとりよがりな内容、すなわち実際にはどのようなことが懸念されているのかなどを調べもせずに自分の頭の中だけで考えたような偏狭なことを書かないように、出題が予想される主要テーマについては勉強しておく必要があると思います。
      なお、2018年度までの問題Vではこの部分は「実現性を高めるためのもう一歩踏み込んだ具体策提案」でもよかったのですが、コンピテンシーの内容から考えると、「その解決策を提案したがために出てきた課題」であれば設問3で新たなリスクとして書き、実現のための留意点のようなものであれば設問2で示す解決策の中に含むというように、使い分けする必要があると思われます。
      なお「解決策に共通して」というように条件が付けてある場合、複数あげた解決策に共通するようなリスクをあげなければいけないことになります。そうすると「一つ目の解決策のリスクと二つ目の解決策のリスクは異なるのにどうやって共通のリスクを書けばいいんだ」と悩むことになるかもしれません。そういう時は解決策に対するリスクで考えるのではなく課題が解決することに伴うリスクを考えるといいでしょう。つまり「最重要課題が解決した時の新たなリスク」で考えるのです。例えば建設部門2020年度問題T-1の担い手確保の問題に対して、就労環境が悪いので担い手が確保できない(問題)→就労環境が悪いのは、労働集約型生産体制で生産性が低いためだ。工事の進捗が遅いから休日が取りにくくなり、収益性が低いから給料も安くなって、労働集約型だから事故も起こりやすい(問題分析)→ならば労働集約型生産体制から資本集約型生産体制に転換すべきだ(課題・なすべきこと)となっているのであれば、資本集約型生産体制に転換されたらどんな新たなリスクがあるか、あるいは資本集約型生産体制に転換しようとした時にどんなハードルがあるかを考えればいいでしょう。 解決策として ICT建機とかBIM/CIMとか書いた場合に「 ICT 建機導入のリスクは何だ?」「BIM/CIM導入のリスクは何だ?」などとそれぞれで考えるから共通のリスクが見えなくなってくるのです。その大元にある最重要課題だけを考えて、それが実現したらどんなリスクがあるかと考えるといいでしょう。

    5. 社会的認識(技術者倫理)〜設問4

      「倫理の観点」は公共の安全を最優先にすることと、「持続可能性」は環境の保全について述べる

      コンピテンシー「技術者倫理」の定義は以下のとおりです。
      • 業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮した上で,社会,文化及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代にわたる社会の持続性の確保に努め,技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。
      • 業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
      • 業務履行上行う決定に際して,自らの業務及び責任の範囲を明確にし,これらの責任を負うこと。

      また問題文は以下のようなものです。
      設問4:業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ

      問題文では、倫理と社会の持続可能性という2つの観点をあげています。
      まず倫理としては、技術士試験なのですから3義務2責務や技術士倫理綱領から考えるといいでしょう。最も題意に沿うであろうものは、公益確保の責務(公共の安全、環境の保全、その他の公益の確保)です。技術士倫理綱領では、「公衆の利益の優先」「持続可能性の確保」の2項目が該当します。
      「公共の安全」とは、「公衆の安全、健康および福利等」ですから、製品安全や公共インフラの安全性などでしょう。当然のことと思うでしょうが、「それを優先する」という点がミソです。
      実際の仕事ではいいもの(安全なもの)を作るというだけでなく、予算の制限や工期などの要求もあるけれど、公共の安全よりそれらを優先する事はしないという考え方のことを書けばいいと思います。さらにいえば、公共の安全より予算や工期などを優先してしまうと、その延長上に構造設計計算書偽装をはじめとする様々な反倫理的行為も発生し得るということですね。現実問題、予算を優先して所定の機能を確保しなかったとして、それを正直に言ったりしないでしょうから、嘘をついたり偽装したりするようになると思われますから。
      なお、実際には出題テーマに応じて少し具体的に書いていただきたいと思います。たとえば災害であれば防災インフラ整備において、維持管理であれば補修補強において、対象インフラの性能確保を間違いなくすることが公共の安全になるわけですが、予算の制限があるような場合でも機能確保より予算を優先したりはしないということですね。
      また「環境の保全」は環境負荷を最小化するということですが、「持続可能性」でもあるので、問題文の「社会の持続可能性」にもまたがりますね。
      次に持続可能性ですが、これは前述の環境保全も含み、たとえば事業を継続できるだけの予算確保や人材確保などに話を広げてもいいようにも思えるのですが、コンピテンシーとしては「技術者倫理」に含まれることを考えると、やはり技術士倫理綱領の「持続可能性の確保」の視点で考えることが順当だと思います。ですからまずは環境保全を考えるといいと思うのですが、テーマによっては環境保全とはあまり関係ないようなものもあるでしょうから、もう少し広げてSDGsで考えてもいいと思います。

    6. 的確表現(コミュニケーション)

      文章力も技術力。読んでわかる、理解しやすい答案が書ける文章力を身につける。

      コンピテンシー「コミュニケーション」の定義は以下のとおりです。
      • 業務履行上,口頭や文書等の方法を通じて,雇用者,上司や同僚,クライアントやユーザー等多様な関係者との間で,明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。
      • 海外における業務に携わる際は,一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え,現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。

      これは、「読みやすい、正しい日本語の文章を書くこと」と思っておけばいいでしょう。

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2.問題対策

以下の4段階で準備されることをお勧めします。

  1. 社会的重要テーマを絞り込む
    受験部門において、出題される可能性が高い社会的重要テーマをある程度絞り込みます。
    また、2019・2020年度の主要部門における問題Tの出題テーマは以下のようになっています。SDGsをはじめ、環境関係の問題が頻出しています。

    部門 2019年度 2020年度 2021年度 2021年度問題の考察、2022年度の要注意テーマ
    機械 ものづくり手法
    SDGs
    技術伝承
    省エネ社会
    DX推進
    故障・破壊公共影響
    Society5.0関連でDXは予想の範囲内。エネルギーマネジメント関係、Afterコロナにおけるワークライフバランス・働き方改革などを中心に、引き続きSociety5.0関連技術(AI・IoT・ロボット・5G)活用にも注意。
    電気電子 SDGs
    人口減少時代対応
    循環型社会
    予防的アプローチ
    IoE社会
    サービス中断予防
    Society5.0関連でIoE社会は予想の範囲内。AI・IoT・ロボット・5G活用やエッジコンピューティングなど、Afterコロナにおけるワークライフバランス・働き方改革などに注意。
    建設 生産性向上
    自然災害
    担い手確保
    維持管理
    廃棄物循環
    風水害
    環境系は予想通りだが非常に限定的。コロナ後の地域存続、仕事や暮らしの多様化、DX、SDGs、インフラ老朽化に注意。
    上下水道 災害事故リスク
    温暖化
    健全な水循環
    事業継続
    事業基盤強化
    国土強靱化
    担い手不足・生産性向上(ICT活用含む)、維持管理などに注意。2021年10月の和歌山での水管橋崩落についてはしっかり調べておこう。
    衛生工学 SDGs
    温暖化ガス削減
    感染拡大防止
    人材不足
    GHG排出ゼロ
    災害レジリエンス
    ICT活用を含めた効率化やスマートシティ、老朽化施設等の維持管理などに注意。
    農業 需給変化対応
    持続的発展
    技術革新
    農業農村整備
    農業変革
    農業農村振興
    T-1は自然や社会の変化に対応した新しい農業を構築するための技術的取組み(スマート農業など)が出題、U-2は人口減少・災害激甚化などの厳しい環境の中での農業農村の持続可能性が出題さているので、生産体制構築やICT活用等による持続、災害対応、老朽化施設維持管理などに注意。
    情報工学 システム要素分割
    情報システム
    5G
    キャッシュレス決裁のNFR
    IoTセキュリティ
    スマホアプリ開発
    Web3.0関連技術(AI・IoT・ロボット・5G)、Afterコロナにおけるコミュニケーションやワークライフバランス・働き方改革などに注意。
    応用理学 海洋プラスチック
    ビッグサイエンス
    水循環
    オープンイノベーション
    インフラ老朽化
    海水面上昇
    一問は社会の持続可能性(地球環境問題・安全安心な社会の構築など)、もう一問は科学技術イノベーション(Society5.0 の実現に向けたICT/IoT の発展など)に注意。
    環境 イノベーション
    SDGs
    五環基
    地域循環共生圏
    再エネ導入
    地球環境危機
    地球環境(温暖化、生態系など)、里地里山・地域循環共生圏・ライフスタイルイノベーション等とICT、スマートシティなどに注意。

    建設部門であれば、国土交通白書2021(令和3年版国土交通白書)では、第T部に「危機を乗り越え豊かな未来へ」と題して、新型コロナウイルス感染症と災害の激甚化・頻発化を「現在直面する2つの危機」と位置づけいます。そしてこれらの危機による変化の加速と課題等の顕在化として、@社会の存続基盤の維持困難化、A災害リスクの増大や老朽化インフラの増加、B多様化を支える社会への変革の遅れ、Cデジタルトランスフォーメーションの遅れと成長の停滞、D地球温暖化の進行の5つをあげていますので、これを中心に考えておくといいでしょう。。
    1. 社会の存続基盤の維持困難化
      特に地方の問題として、従来からの人口減少とコロナ禍の影響で、地方公共交通の持続性維持困難と観光産業の衰退といったことがあり、新型コロナ関連の出題テーマとしては十分考えられるものです。どちらも「土木」の視点では書けることは少ないのですが、「まちづくり」の視点で考えるといいでしょう。
    2. 災害リスクの増大や老朽化インフラの増加
      災害には洪水・土砂災害・地震・津波といったものがありますが、特に洪水・土砂災害は発生頻度も高く被害も甚大化しつつあります。ただこれについては2021年度に出題されているので、2年連続の出題の可能性は低いでしょう。
      一方老朽化インフラについては2020年度に出題があるものの1年空いているので、再出題の可能性を考えておいてもいいと思います。基本的には予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策ですね。
    3. 多様化を支える社会への変革の遅れ
      女性や高齢者の就業率上昇等に伴って共働き世帯増加、育児・介護と仕事の両立等、働き方も多様化していますが、女性管理職が少ないなど女性活躍が遅れているとともに、テレワーク利用率・副業や兼業の普及・起業意識等の比率が低く働き方の多様化も遅れています。
      こうした中、コロナ禍でテレワーク利用が増加するとともに二地域居住・地方移住、ワーケーション・ブレジャーへの関心が増加する傾向があり、東京一極集中の傾向変化の兆しもあり、働き方や住まい方の多様化が加速しているようです。国交省は都市構造再編集中支援事業へのテレワーク拠点施設の追加、女性定着促進に向けた建設産業行動計画策定、「新たな旅のスタイル」普及、地域に対するコンテンツ整備支援、高付加価値・長期滞在型コンテンツの造成、MaaSの推進、バリアフリーの推進、歩行者利便増進道路といった施策を推進しつつあります。
    4. デジタルトランスフォーメーションの遅れと成長の停滞
      人口減少の中で経済成長を実現するためにはDXによる生産性向上が不可欠ですが、我が国のDXは世界に比して遅れています。コロナ禍を契機としてDXの遅れとその必要性が認識されたことから、企業・政府におけるDXに関する取組みが進められており、今後DXは加速化すると考えられます。なお国民意識調査ではDXに最も期待するのは多様な働き方への理解・支援推進やテレワーク定着による通勤日数減少で、各種手続き効率化・交通安全・防災・遠隔医療・オンライン授業といった生活サービス高度化の期待、観光における決済電子化や観光MaaS等の期待も高いようです。
      建設分野では、5Gを活用した無人化施工、BIM/CIMの適用拡大、観光DX(オンラインツアー等)、MaaS・キャッシュレス決済活用、物流デジタル化、行政デジタル化等による生産性向上、次世代モビリティ、スマートシティ、新技術活用物流等のイノベーション促進といった取組みがあります。
    5. 地球温暖化の進行
      環境関連は2021年度に出題がありましたが、廃棄物に限定だったので、地球温暖化、さらには持続可能性・SDGsに広げて考えれば出題の可能性はあります。我が国は温暖化ガス排出を2030年度までに2013年度比−46%、2050年に排出実質ゼロという目標を掲げています。国土交通分野での取組みはエネルギー分野(自然エネルギー導入促進)、都市交通分野(スマートシティ、グリーンスローモビリティ等)、自然共生分野(グリーンインフラ、下水道資源有効利用・建設リサイクル推進等による循環型社会促進党)の3分野ですので、これを基本として整理しておけばいいでしょう。

  2. 知識を蓄える
    社会的重要テーマについての知識を蓄えないと、そもそも書くネタがなく、高評価答案は作れません。
    知識を蓄えるためには、次の2段階ステップでの取り組みがお勧めです。
    1. 白書等の文献(建設部門であれば日経コンストラクション等もお勧め)やこのセミナーテキスト・動画等の、「重要テーマについてざっくり説明している資料」でまず大枠を理解する。
    2. 建設部門であれば国交省や国総研、各種専門誌、さらにはネット情報等で、さらに一歩深い情報を得て、知識を深める。特に国土交通白書は、現状と施策については紹介してあるものの、課題解決に関わるロジック、すなわち現状からどのようにして施策につながっていくのかという部分の説明が薄いので、課題抽出分析→解決の方向性→具体策といったストーリーを理解しようと思うと、白書だけでは不足。
    問題Tや問題Tと似ている問題Vの不合格答案を見ると、上記Aが不十分なものが目立ちます。すなわち、白書やセミナーテキスト等で表面的には理解しているのだけれど、薄っぺらな知識であるため、それが答案に如実にでてしまっているものが多いのです。
    時には上記@すら「言葉の丸暗記」になっていて、「記憶」と「理解」を混同してしまっている場合もあります。ただ覚えるのではなく、理解しなければダメだということを肝に銘じてください。

  3. ロジック構成を考える(課題解決の視点で主要施策と実現策までの流れを整理する)
    (2)で蓄えた知識を活用して、@課題抽出→A課題分析→B解決策の提案→C新たなリスク抽出→Dその対策というロジック構成を考えます。
    文章を書くこととロジックを考えることを同時にやったりせず、まずロジック構成を整理して書くべきことを全部決めてから文章を書くことが重要です。
    Bは現実の施策等に一致することが望ましいと思われます。
    Cは、2013〜2018年度の問題Vの設問3に見られた「解決策実現に向けてさらに一歩踏み込んだ、さらなる具体策」に近いものになるでしょう。すなわち、「白書に書いてあること」、いわば「国等が提唱する大きな方向性、スタンダード」なので、これを地域や現場で実現しようとすると様々な問題が出てきます。たとえば老朽化インフラの予防保全であれば、その担い手はどうするのかとか、予防保全に転換するためには現に損傷しているインフラを全部修復しないといけないが、そのための予算がそもそもないとかいったことです。ちなみにCは専門技術的視野だけにならず、幅広い視野で考えることが求められますが、これは「人・モノ・カネ」の視点で考えるようにするといいでしょう。
    そしてDはCへの対策なので、これが最終的な実現策になることもありますし、さらなる改善策になることもあるでしょう。また提案とは別の二次リスク対策になることもあると思います。いずれにせよ、これについては白書に書いてある内容から一歩先に進んで、実際に現場で実行されている施策等であることもあれば、受験生自身が実務の中で経験した実例を書いたほうがいいこともあるでしょう。
    以上の@〜Dは、骨子にまとめておくといいでしょう。なお、この骨子は経歴票の業務内容詳細(小論文)で用いたものと似ていますが、解決策提案で終わらず、新たなリスクとその対策まで考えているという点で異なります。

    @問題 A問題分析→課題抽出
    B方策提起 C新たなリスク Dその対策
    困ったこと
    重大性・困難性等について読み手が納得できるものがよい
    多様な視点が求められるので、技術だけでなく予算や担い手など幅広く考えるといい
    問題の発生原因・発生機構などを分析してなすべきこと(課題)を抽出 問題分析結果から必然的に求められる解決策
    基本的には実際の施策や取組みに沿ったものがいいと思わる
    解決策を提案したがための二次リスク、あるいは解決策実現に際してのボトルネック
    技術的なものだけでなく、コストや期間、リソースや合意形成、環境影響や安全など幅広く考えるとよい
    新たなリスクへの対応策
    実際の施策等を踏まえることが望ましい
    設問1 設問2 設問3

  4. 読みやすい文章を書く力を身につける
    最後は答案用紙に文章を書かねばなりません。後述の問題Uであれば、箇条書き等が有効なこともありますが、ロジック主体の問題T・Vでは、箇条書きだけではロジックをうまく表現できません。
    そうすると、簡潔明瞭で読みやすい文章を書く力が必要になってきます。従来の試験でもそれは必要なことでしたが、2019年度からは「コミュニケーション」という評価項目が明示されているので、採点者は読みにくい文章・わかりにくい文章に対してマイナス評価をすることができるようになっています。
    文章力を身につける即効的な方法はありませんが、お勧めは合格答案を読む・引用するということです。APEC-semiでは合格答案実例集を提供していますが、こういったものを活用し、複数の合格答案を読み、読みやすいと思ったもの、自分の文章の感性に合っていると思うものを選んで、これを「お手本」として文章を書いてみるといいでしょう。言い回しとか言葉の使い方などを「盗む」わけですね。さらには「写す」という作業を繰り返して文章スタイルを身につけて合格した人もいます。
    ロジック構成を考えることと、文章を書くことは、自分の頭の中にある答案イメージのアウトプットです。勉強をすること(このテキストを読むことや講義を聴講することを含みます)はインプットです。
    しかしインプットだけがんばってもアウトプットの練習をしないと高得点を取れる答案は作れません。インプットと同じくらいアウトプットの練習をしてください。

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3.主要テーマの解説

参考のため、建設部門の主な社会的重要テーマについての骨子例を以下に示します。くれぐれもこれを丸暗記するのではなく、資料等を自分で調べて、あくまで自分の知識として理解し、整理してください。
また、新たなリスクとその対策については、他にもいろいろ考えられると思いますし、二次リスクとして考える場合もありますし、実現を阻むボトルネックを書いたほうがいい場合もあります。このあたりは問題文の内容に合わせて臨機応変に考えるべきでしょう。
繰り返しますが、骨子の内容を、「これを書けば合格する」というように捉えて丸暗記するようなことだけはないようにしてください。

  1. 新型コロナウイルス感染症関連
     @問題・課題 A問題分析 B方策提起 C新たなリスク Dその対策
    @社会の存続基盤維持困難化
    ・公共交通や観光産業といった社会の存続基盤である産業の持続性が危機にさらされ、特に地域経済に対する打撃が大きいので、これらの持続性確保が必要
    ・地域公共交通はコロナ禍以前から人口減少で厳しい経営→コロナ禍で加速
    ・コロナ禍収束後も十分回復しない可能性
    ・医療・福祉、商業、教育、防災等生活サービス維持には人口規模と公共交通基盤が必要→人口減少とコロナ禍による公共交通衰退が地域生活サービス維持を困難化
    ・地域公共交通計画の高度化
    ・まちづくりと連携した地域公共交通ネットワーク形成+地域における輸送資源の総動員等による地域公共交通計画の策定推進
    ・立地適正化計画と連携した地域公共交通計画策定
    ・貨客混載等による物流サービス維持
    ・担い手(たとえば運転手)不足
    ・小規模自治体のマンパワー不足による計画策定困難
    外国人採用など
    ・近隣自治体で連携した計画策定
    ・観光産業は国内外の需要が大きく落ち込み事業継続の困難化が顕著 ・既存観光拠点の再生・高付加価値化推進
    ・滞在コンテンツ充実
    ・テレワーク普及に伴う二地域居住・地方移住の推進
    ・マンパワー不足、ノウハウ不足等による事業リスク、投資敬遠 ・各種支援制度活用、行政主導の協議会等
    ・一次産業やSDGs関連事業等との連携
    A災害リスクの増大や老朽化インフラの増加 ・災害は2021年度出題済みなので省略
    ・老朽化インフラはCで記載
    B多様化を支える社会への変革の遅れ
    ・女性や高齢者の就業率上昇、価値観や消費行動の変化等による多様化の推進が必要
    ・女性管理職が少ないなど女性活躍が遅れている ・建設産業行動計画策定等による女性の定着促進 ・仕事と家庭の両立支援の遅れなど ・ICT活用の促進など
    ・テレワーク利用率・副業や兼業の普及・起業意識等の比率が低く働き方の多様化も遅れている ・立地適正化計画等へのテレワーク拠点施設導入促進
    ・二地域居住・地方移住、ワーケーション・ブレジャー促進
    ・高付加価値・長期滞在型コンテンツの造成、MaaS推進等
    ・マンパワー不足、ノウハウ不足等による事業リスク、投資敬遠 ・各種支援制度活用、行政主導の協議会等
    ・一次産業やSDGs関連事業等との連携
    CDXの遅れと成長の停滞 ・Aの生産性向上の中で記載
    D地球温暖化の進行 ・BのSDGsの中で記載
    • 生産性向上(DX推進)・災害・インフラ老朽化・環境(持続可能性)の4大テーマのうち、生産性向上については、単独で整理した上で新型コロナとの関連について少し深めておくと良い。
      災害・インフラ老朽化・環境はコロナとは別枠で用意。

  2. 生産性向上(DX)
     @問題・課題 A問題分析 B方策提起 C新たなリスク Dその対策
    ICTの社会への取組み
    ・人口減少・担い手不足・働き方改革・コロナ禍の中で、経済成長・国際競争力維持のためにはICTを活用したDX・Society5.0の推進が必要不可欠
    ・企業文化の硬直化、テレワーク導入遅れ、レガシーシステム
    ・建設現場の生産性が低い状態が継続している(労働集約型生産、事後保全型管理等)
    ・国土・経済活動・自然現象等のデータが急増しているが、分野限定での活用にとどまり、横断的に活用されていない
    ・テレワーク等推進
    Web会議、リモート臨場、RPA等
    ・i-Construction、建設DXの推進→ICT土工やBIM/CIM拡大、インフラメンテナンス2.0、5G活用無人化施工等
    ・インフラデータプラットフォーム(プラトー)・国土交通データプラットフォームを構築し、API連携で利活用
    ・たとえば新技術導入と規制基準との相反、自治体ごとのデジタルデータ化のばらつきなど
    ・たとえば膨大な機器設置配線への投資や消費電力の問題など
    ・行政主導の限界
    ・データ利活用方式の不統一による非効率化など
    ・トライアル的取組みを通じた規制基準の見直し、全国一斉のデジタルデータ化の実施など
    ・低消費電力での無線化など
    ・国土交通データ協議会、オープンデータチャレンジ等
    ・利活用ルール整備
    ・高齢者高越事故の増加、交通・物流サービス担い手不足、交通情報や公共交通手配等の移動利便性が低い ・自動運転、グリーンスローモビリティ、MaaS、リアルタイム交通案内等の次世代モビリティの推進、ドローン配送実現 ・たとえばMaaSでは企業間情報交換の制約、収益化困難、キャッシュレス化の遅れなど ・ダイナミックプライシング、移動先サービスを含めたオンデマンドサービス、交通系を中心としたキャッシュレス推進など
    ・利用者ニーズに適合しない施設配置や交通等公共サービス
    ・激甚化する災害の中で安心安全確保困難
    ・人流データを活用した施設立地や交通サービス最適化、防災減災情報提供・避難誘導等の充実したスマートシティ ・たとえば人流データ活用に当たっての個人情報の問題、公共だけでの推進の困難など ・個人が特定されないデータ活用技術の開発、公民連携のプラットフォーム構築など
    ・エネルギー利用効率が低い ・HEMS、BEMS、CEMS等、街区や建物単位でのエネルギー供給最適化 ・たとえば膨大なデータの品質確保、まびき表示やトラフィック対応などの技術的課題が多く残っている ・協議会・研究機関等との連携の中で今後検討し対応することになっている
    • 2019年度の問題T-1は担い手不足の中でどうやって生産性を向上させていくかという、インフラ整備・管理に限定した視点での出題であった。これをさらに発展させれば建設DXになってくる。
    • さらにICT活用によって生産性を飛躍的に向上させ、国土整備・まちづくり・災害対応・観光等、社会全体の高度情報化について出題される可能性がある。「Society5.0」とか「第4次産業革命」といわれるように、ICTを活用して便利になる・効率化されるなどといったレベルではなく、働き方や暮らし方、社会経済の仕組みが激変するステージに入っているという認識を持つことが必要。
    • 第4次産業革命とは、IoTおよびビッグデータ、AIといったものを核とした技術革新を指す。これによって、次のような取り組みが発生している。
      A)財・サービスの生産提供におけるデータ解析結果の様々な形での活用
      B)シェアリングエコノミー(インターネットを通じたサービス利用者と提供者のマッチング)
      C)AIやロボットの活用
      D)フィンテック(ICTを活用した金融サービス)
      これらの中で建設部門にはA〜Cが関係する。i-Constructionのような、「インフラ整備の効率の悪いところをICT導入により効率化する」というレベルであればCの「AIとロボットの活用」だけの話になるのだが、たとえばETC2.0の交通流データを活用してシミュレーションをしたりピンポイント渋滞対策をしたりといった話になるとAも加わってくるし、国土交通プラットフォームもこれに当たる。Bもオンタイムの公共交通サービス(デマンドタクシーなど)には必須になってくるし、仮想発電所もこれといえる。さらにA〜Cを統合すると様々な次世代交通システムとそれを基盤としたスマートシティのようなものも出てくる。このようにして、「ドローンで測量する」とか「ICT重機で施工する」などというようにインフラ整備や社会経済活動の一部だけが効率化されるのではなく、社会経済活動・暮らしが一変するような状況、生活の隅々にICTが入り込んで支えている状況をイメージできることがSociety5.0の理解には必要。
    • Society5.0、IoT、ビッグデータ、AI、MaaS、HEMS/BEMS等の用語が頻出すると思われるので、こういった用語や施策等に関する正確な理解(専門的学識)が重要。たとえば「スマートシティ」は、国交省がH30.8の中間とりまとめで「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義している。細かい文言まで記憶する必要はないが、正しいイメージを持つことが重要。

  3. SDGs、持続可能性
     @問題・課題 A問題分析 B方策提起 C新たなリスク Dその対策
    環境負荷
    ・経済活動に伴う温暖化ガス排出増加しているので抑制すべき
    ・生物多様性の危機が進行しないようにすべき
    ・化石燃料(特に火力発電)への依存
    ・効率の悪いエネルギー消費
    ・家庭や事業所での消費電力の増大
    ・農林水産業の衰退、中山間地過疎化に伴う里地里山の荒廃
    ・再エネの導入促進(特に洋上風力発電、太陽光発電)
    ・省エネ創エネ(HMES・BEMS・CEMS等)の推進
    ・持続可能な農林水産業の推進、林業の産業化と森林再生
    →カーボンニュートラル
    ・再エネは小規模不安定
    ・膨大な機器設置配線への投資や消費電力の問題など
    ・担い手不足、経費がかかり収支確保困難
    ・スマートグリッド、VPP等
    ・低消費電力での無線化など
    ・ICT活用したスマート一次産業
    都市の
    居住性低下
    ・人口減少で都市がスポンジ化→快適に暮らせるまち
    ・都市構造が拡散していると交通弱者は移動困難 ・コンパクト+ネットワークの推進、立地適正化計画
    ・地域循環共生圏
    ・自家用車依存のままだと中心市街地、周縁部とも不便 ・トランジットモール、デマンド交通、MaaS等次世代モビリティ・スマートシティ
    激甚化する
    災害
    ・気候変動に伴う激甚災害頻発、大地震が予測される中で大規模災害に対応
    ・防災意識が低下しているのを再構築する必要
    ・広域災害に伴う経済的影響の広域波及を抑制 
    ・異常気象に伴う異常降雨・出水による超過外力、従来想定以上の地震動・津波による防災インフラ能力超過等により、ハードだけでは防災不可能
    ・@防災意識の低下、A災害情報提供の遅れ、B発災時対応手順がない・周知不足、C少子高齢化に伴う災害弱者の増加に伴う避難遅れ等による被害の甚大化
    ・超過外力に対して粘り強く破壊する「粘り強い構造」と多重防御により避難の猶予を稼ぐ ・河川堤防等は膨大にあるのでコスト的に早期の改良等は困難 ・リスクアセスメント等で優先順位を決めて対応
    ・@リスクの見える化(HM、地域指定等)と防災意識啓発、AX-RAIN等システムとプッシュ・プル・ブロードキャスト型情報発信、B住民も含めた包括的タイムライン構築、C自主防災組織等による共助 ・HMやタイムライン等の存在・内容を住民が知らないと効果がない
    ・地域コミュニティ希薄化、過疎・高齢化進行による共助担い手不足
    ・避難中の二次災害
    ・住民参加でのHMやタイムライン等の作成、まちごとまるごとHM
    ・NPOと協働で地域コミュニティが希薄な地域を中心に啓発活動
    ・二次災害も含めたHM作成、避難訓練等
    ・サプライチェーンの脆弱さ、一極集中 ・首都機能移転推進、・高速道路ネットワーク等によるリダンダンシー確保 ・落橋等重大被災あると交通ネットワークの迅速復旧が困難 ・早期復旧が可能な構造
    ・一般道も含めた迂回路等リダンダンシー確保
    • SDGsは分野横断的に取組みが必要。国際社会の中での我が国のイニシアティブ発揮のため、積極的な取組みが進められつつある。
    • 災害や維持管理、担い手不足、拡散型都市、環境問題等、多くの分野を包括的に扱う新しい重要テーマであるため、出題されやすい(災害は2021年度に出題されたばかりなのでほぼ考えなくてよいが、包括的出題の場合は少し書けた方がよい)。
    • 環境分野としては2021年度に廃棄物に絞り込んで出題されたが、持続可能な社会まで広げて包括的に出題、あるいはスマートシティに集約していくような出題の可能性もある。

  4. インフラ老朽化
     @問題・課題 A問題分析 B方策提起 C新たなリスク Dその対策
    インフラ利用継続の困難化
    高度経済成長期に構築したインフラが一斉に老朽化し、継続利用が困難になり社会経済に打撃→戦略的維持管理
    ・従来の損傷が顕在化してから補修や更新等を行う事後保全では予算的に維持管理更新が困難になる ・損傷等顕在化前に補修補強等を行い、インフラを長寿命化してライフサイクルコストを低減する予防保全に転換→点検はほぼ完了、補修修繕を進める段階 地方自治体特に小規模市町村では、人材・体制・予算面でインフラ長寿命化を進めることが困難 国による研修実施
    民間資格登録制度、包括民間委託
    道路メンテナンス会議等の体系的技術アドバイス
    緊急・高度な技術力要する橋梁等での直轄診断
    長寿命化計画策定を防災安全交付金要件とする
    地域一括発注、PFI/PPP
    ・維持管理情報を紙の資料で管理する自治体が多くデータベース化が進んでいない ・ドローンやセンサー等の新技術を活用し、データ活用型のインフラメンテナンス2.0に転換→インフラ・データプラットフォームへ
    • インフラ老朽化・維持管理の場合、一歩進んでストック効果の最大化に関する出題があり得るので、そちらもしっかり勉強しておいてください。
      ストック効果 ハード的改良による最大化 ソフト的運用による最大化
      安全安心効果 ダム嵩上・放水口追加、粘り強い構造 ダム事前放流
      生活の質向上効果 コンパクトシティ、グリーンインフラ デマンドタクシー、MaaS
      生産性向上効果 ミッシングリンク解消、スマートインター、暫定2車線のフル化 賢い高速道路料金体系、道の駅一時退出


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