口頭試験体験記 森林部門(平成18年度以前) Back

年度 体験記提供者 備考
14 01:林業 (大学演習林・技術職員33歳)
02:森林土木 浜の真砂さん

1:林業

口答試験(林業部門・林業)大学演習林・技術職員(33歳)
林業部門、林業、森林環境

試験場所:フォーラム8
日時:平成14年12月12日(木) 10:30〜

<試験開始まで>

宿泊したホテルから試験会場まで、徒歩で約30分。歩きながら、自分でもかなり緊張しているのがわかる。ふと、フォーラムエイトのすぐ隣の「道玄坂の碑」の横に、1本の桜があるのを見つけた。なぜかその桜にどうしても触りたくなったので、近づいて手を当ててみると、不思議と気持ちが落ち着いてくる。「都市の緑の癒し効果って、こういうことかも…」、と思いつつ、今朝落ちたばかりの彩りの美しい葉があったので、お守りがわりに1枚いただいていく。
受付を済ませ控え室に入ったのは、指定時刻の1時間前であった。ほとんどの人が資料も読まずに黙って座っていたが、自分はかまわずあれこれ資料を取り出して、最後のおさらいをする。この段階で、技術士法の条文を暗記しようとしているのは自分くらいかもしれない。緊張が高まってくると、さっきの桜の葉を机の上に置き、左手を乗せて勉強した。ありがたいことに気持ちがすうっと軽くなり、かなり集中して勉強出来た。
定刻通りに、女性の係員が控え室に呼びに来る。後ろについて、試験場に向かう。あまりの緊張に尿意を覚えたため、係員の女性に「ちょっとトイレに行かせてください」と言おうとしたら、女性が何の前触れもなく近くの部屋のドアを開けたのでかなり驚く。試験会場は控え室のほとんど隣だったような気がする。せめてノックするとか、心の準備をさせてくれてもいいのに…

<口答試験の再現>

試験官は2人。向かって左側が、ひげをたくわえた丸顔の40代の男性(以後、QL氏とする)。右側が少し年配の気難しそうな細面の男性(以後、QR氏とする)。
職業はうかがい知れないが、試験中の印象ではQL氏は官僚か大学の先生、QR氏はベテランのコンサルタントか?
「A****の○○です。○○○からやってまいりました。今日はよろしくお願いします」
そう挨拶して、促される通りに荷物を置いて着席する。
口答試験は、終始QL氏がリードする形で進められた。
QL: (にこやかに笑いながら…) さて、ここにある資料では、二次試験を受験するための経験年数が足りないようですが?
A: えっ?(そんなはずが…)
QL: 私の手元の資料ではそうですよ。ほらっ。* そう言って手元の資料をこっちに示す
QR: 私の資料では技術士補の経験年数4年ということで受験なされたことになっていますが…この経歴で間違いないですか?
A: はい
QL: そうですか、なんだか違う資料が来ているようですね。* ほっと一息ついたその時、QR氏がすかさず!という感じで
QR: じゃあ、技術士補としての4年間でどのように技術士を補助していたのか説明してください。
A: 私の指導技術士は演習林の本部におりまして、南の演習林、あっ、私の大学では複数の演習林を持ってまして、私のいた○○演習林は南の方に所属しているのですが、それで私の指導技術士は南の方の活動を統括する部署におりましたので、そちらの方と連携する形で自分の演習林での仕事、これは森林のフィールドと施設の管理、森林における長期の環境調査、それと演習林でやっている研究・教育の支援業務が中心なのですが、これらに取り組んでおりました。* この間、QL氏が終始うなずいてくれていたので、少し落ち着きを取り戻す
A: これでお返事になってますでしょうか?
QR: はい。いいですよ。
QL: じゃあ、この試験を受けようと思った動機を教えてください。
A:(やった。これは想定どおり!)私が技術士を取りたいと思った動機は3つあります。1つ目は先ほどお話しました私の指導技術士から受験を勧められたからです。われわれ公務員は自分の技術レベルを客観的に評価されることがありませんので、この技術士のように高い(ここでちょっと口ごもる)レベルというか、技術力が要求される資格に挑戦して、それを目指して自分を高めていくことは重要だと思っています。
次に2つ目ですが、私はNPOの一員として活動することも多いのですが、あっ、いま私は中国で緑化活動に取り組んでいるNPOのメンバーとして、技術的なアドバイスなどもさせていただいているのですが、そういった場で活動する場合にですね、職場の肩書きをはずした一人の人としての能力というか、技術的な話をしたときに職場の肩書き以外に、こんな裏づけがあるんですということを証明するために「技術士」の資格が欲しい、いや技術士となることが必要だと思いました。
3つ目は、私は技術者教育に興味がありまして、というよりも私は大学の職員として技術者教育に取り組みたいと思っておりまして、しかしながら今の大学教育というのは、博士号をもった研究者が独占しておこなっている状態ですので、私たちのような技官や事務官などはほとんど口出しできないようになっています。(しまった、事務官はこの際関係ないのに…)
しかし、最近JABEEの認証制度などが導入され始めて…* ここでQL氏がそうそう、という感じでうなずいてくれる。QR氏は無言で下を向いているのでついついQL氏だけに向いて話してしまう
認証に必要な基準の中に、「技術士等の資格を持つ者や、実務経験のある者を教員陣に含むこと」という規定がありますので、これは技術者自身が技術者教育に参加できる機会が出来たということですので、是非とも技術士を取得して、技術者教育に取り組みたいと思っています。以上の3つが私が技術士を取得しようと思った理由です。
QL: それじゃあ、業務経験の方に入りますが…、さすがに大学の演習林に長く所属されているということで、いろいろなお仕事をなされているようですね。* そう言って、受験申込書の経歴欄をちょっとこちらに示すこれまでやってきた仕事の中で、あなたが「これは自分がやった仕事だ」と胸をはって言えるという仕事を1つ挙げて説明してください。また、反対に「これは失敗だった」という仕事について、また、そのとき講じた対応策について説明してください。
A: (ちょっと考えて)…それでは、経験論文(…じゃなかった!)、選択問題1−1で詳述した「バイオマス林相図の地図情報化」の仕事についてお話します。* こう言った途端、二人とも手元の答案用紙をすごい勢いでめくって読み始める。この仕事は二つの部分に分かれておりまして、前半は空中写真から、演習林の流域の林相を判読して林相図を作成するまでです。
この前半部分は私の指導技術士が主体になって進めていました。後半はその林相図を電子化といいますか、地図情報化するという仕事でした。私の指導技術士は、その部分を最初、外注にすることを考えていたのですが、あがってきた見積もりが、専門の地図業者が作ったものだったんですが、400万くらいかかるということだったんですね。
私はそれを見まして、これはいくらなんでも高すぎるだろうと思いまして、その見積書を検討しまして、これなら70万くらいで出来るんじゃないですかって、見積り(じゃなかった)、企画書を出したら、「それじゃあ、お前に任せる」という話になりまして…* ここで言葉を切って反応を伺うが、二人とも無反応。それで私が取り組むことになったのですが、最終的には36万円くらいで目的の物が出来ました。* ここでも無反応。うーむ、コスト面が重視されると聞いていたが、ちょっとはずしたか?
安く外注に出すために、データの構造やファイル構成は私自身が考えて指定しましたし、利用者である研究者にとって使い勝手のよいシステムを考えましたので、その部分は私のオリジナルだと思います。
次に失敗例なのですが、同じ業務からでもよろしいでしょうか?
QL: いいですよ。
A: そのバイオマス林相図が出来上がってから、数年はそのまま利用されていたのですが、今度はGIS、「ArcView」に取り込むという話になったんです。それで、最初に作ったCADのファイルはArcViewで自動変換出来るはずだったんですが、自動変換が出来なくって、結局は改めてトレースし直しGISに取り込んだんだそうです。その理由は、CADの図面は複数の層で出来ているんですが、違う層にある線がこのように同じ位置で重なっていると…* この時、手で線の重複を表現したのだが、二人とも下を向いているので見ていない。うまく説明できているか、非常に不安になる。自動的に認識してくれなかったというのが原因のようです。
その時、私は異動していましたのでその仕事にはかかわっていなかったんですが、最初にCAD化したときには互換性や拡張性のあるファイル形式を売りにしていましたので、その面でいえば失敗だったと思っています。対応としては、単にCADの説明を鵜呑みにするのではなく、変換の経験がある人に聞いてみるか、自分でやってみてちゃんと確認しておくべきだったと考えています。
QR: それでは、専門的なことについてお伺いします。必須科目の林業一般のところで、「萌芽更新作業の留意点」について解答されていますが、本文では「新しい芽(ひこばえ)」と表記されていて、図の方では「萌芽」という言葉を使っていますね。わざわざ「新しい芽(ひこばえ)」という言葉を使った意図は何ですか?
A: えーと、それは…単に専門用語をぼんって使ってそれで済ます訳でなく…* 完全に不意を突かれて、言葉に詰まる。この瞬間にいろんな考えが頭を駆け巡った。「採点の際には専門家が読むとは限らないので、なるべく易しい言葉を使いました」って言おうか? いや待てよ。筆記試験の採点をする人間が「萌芽」って言葉を知らないはずがないし、「読むのは専門家じゃないかもしれない」なんて言ったら試験官に失礼かも…
A: 専門用語を説明無しに使うっていうのは…(再び詰まる)、ちょっと待ってください考えを整理します。
QR: どうぞ
* いかん、そのときの意図が思い出せない。ここは覚悟を決めて乗り切るしかないと決心する。
A: (深呼吸して…)すいません、時間がたっているものでその時の意図は思い出せないのですが、仕事柄、雑木林の管理に関して一般の市民の方々の前で萌芽林の管理方法についてお話しすることが多いのですが、そのときは単に「萌芽」と言っても分からないことがありますので、「ひこばえ」というように易しい言葉で言い換えるように心がけています。このときもそのような意識で本文を書いたのでその言葉を使ったのではないかと思います。本文と図で言葉が違ったのは不徹底だったと思います。* すごいごまかしを言ったものである。今考えると、そもそも問題が「萌芽更新作業の留意点」なのだから、「萌芽」という言葉をそのまま使っておけば良かった。
QR: いやね、20年くらい前の試験で、樹木生理をやってる人が「『不定芽』という言葉について、そういう言葉の使い方は間違っているって」主張されたことがあってね。今回も何かそういう専門知識があって違う言葉を使っているのかと思って質問したんだけど…ここは「萌芽」って言葉をそのまま使っても良かったんじゃないかな。ただ、あなたが「新しい芽(ひこばえ)」という言葉を使った意図は分かりました。それはそれで筋が通っていると思いますよ。
A: はあ、ありがとうございます。
QL: ところで、もしこの試験に合格した場合には、あなたも、技術士…「さん」になられる訳ですが、その場合、技術士さんとしてどのように活動していこうと考えていますか?
A: (いま、「技術士さん」っていったよな。そうするとこの人は技術士じゃないのか…?)「技術士としての活動」ですか… * 「しまった、今後の抱負についてはさっき動機のところで話したし、繰り返しはまずいよなー」、と思い、少し考えてから答える。
はい。私は先ほども申しました通り、私は環境NPOのメンバーとしても活動しておりますので、そうした活動を通じて社会に貢献していきたいと思っています。私は僻地に住んでおりますので、直接そういう活動に参加できる機会は少ないのですが、そこはインターネットなどを利用しまして、「世のため、人のため」と申しますか、自分の専門的な知識を直接社会に還元していくような活動をしたいと思います。
あと、そのためには、常に自分を高める努力も必要だと思っています。技術士を取っても、それがゴールというわけではなくて、そこをスタートラインと考えて、常に努力していこうと…(ちょっとアピールが弱いかな?)
あの…環境問題って最近ますます深刻化してるじゃないですか。それで、激しく変化している分野ですので、ついていけないようにならないように、自分を高めていくことが重要じゃないかと考えています。* このときは「社会への貢献」と「資質向上の責務」について優等生的な解答が出来たといい気になっていたが、いま考えてみると、ここでは「自分の本業の中で技術士の資格をどう生かしていくか?」について答えるべきだったと思う。例えば、「技術士の裾野を広げるために、うちの大学の学生たちに技術士の取得を勧めていきたい」とか…どうも、この辺りから自分でもピントはずれの返答が多くなってきたような気がする。
QR: 業務経験の部分で、「流域の森林の炭素固定量を推移するためにバイオマス林相図を作成した」って記述されていますが、この森林の炭素固定量の推定っていうのはどんな仕事…?
* この時、質問を最後まで聞いてから落ち着いて答えたのかどうか、自分でも良く覚えていない。もしかしたら、質問をさえぎって話し始めてしまったかも…
A: 森林の炭素固定量に関して、この時うちの演習林ではこの問題に関する国際プロジェクトが進んでいまして、うちの演習林と…えーっと…、すみません、参加していた機関の名前はちょっと忘れてしまったのですが、その国際プロジェクトというのは「○○○○」っていうプロジェクトでして…
* このときQL氏がそうそうという感じでうなずくのが見えたので、調子に乗ってしまう。いま、森林の二酸化炭素固定量を見込んで、その分だけ排出してもかまわないという国際的な取り決めがなされていますが、「○○○○」の方では、果たして森林が本当はどれだけ二酸化炭素を固定しているのか調べて、その成果を政策サイドに引き渡すのを目的にしたプロジェクトでして、それで○○演習林で進行していたプロジェクトでは、1つには、個葉のレベルでの炭素固定から、樹木個体の固定量、群落としての森林での固定量というようにスケールアップしながら、森林の二酸化炭素固定量を推定できるようにしようっていうプロジェクトでして…
* QL氏が興味深そうにうなずくのが見えたので、ついついQL氏の方だけ見て話してしまう。質問したのはQR氏なのに…
A: もう1つは、森林が固定した炭素が河川によってどれくらい流域外に運ばれているかということを調べようというプロジェクトでした。
QR: じゃあ、あなたは個葉レベルの炭素固定量の流域での分布を調べて、それをGISに取り込んで流域の二酸化炭素固定量を推定したという理解でいいのかな?
A: いえ。その時はまだGISは導入されていませんでした。
QR: じゃあ、あなたが個葉レベルの炭素固定量の流域での分布を調べて、それで固定量を推定したということか?
A: いえ。森林の炭素固定量は…ええっと、林分の生長量から推定するので個葉レベルの固定量を積み上げたという訳では…個葉レベルから個体レベルへのスケールアップというのは…* ここで、微小レベルでの観測は、より大きいレベルでの観測の信憑性について検証するために行うので、それが確かめられれば実用レベルでの観測は、群落レベルでの生長量から割り出すはず、というようなことを説明しようとしたら…
QR: (ちょっと声を荒げて)私が聞きたいのは、あなたがやった仕事はなにか、ということなんだ。じゃあ、あなたが群落レベルの観測を責任持ってやったということでいいのか?
* でたっ!「あなたがやった仕事はなにか?」という質問。これはハマリのパターンかも…と、とっさに思った。しかし、さっき私は林相図の情報化をやりましたって言ったはずなのに…、なんでプロジェクトの責任者をやってたみたいに言われるのかなあ?
A: それは違います。それぞれのレベルの(固定量を観測する)サブプロジェクトは、それぞれ研究者が責任者になって進めていますので、私が進めたと言う訳じゃなくて…私はそのデータを使いやすい形にしたというか…
QR: (さらにいらだった感じで)だから、私が聞いているのは、あなたが何をしたのかっていうことなんだよ!群落レベルの観測をあなたが進めて、それをまとめたという理解でいいのか?
* この時、「だから俺が調査の責任者なんて、大層なものやってたんじゃないって!なんでわかってくれないんだ?」という気持ちで、ちょっとむっとしたのが表情に出たかもしれない。「いかん、ここで口論になったらお終いだ」と自分に言い聞かせたのだが、同時に「単に研究者が利用する資料として林相図の作成をやっただけです」っていうのもなんだか技術士にふさわしい仕事じゃないかも知れないという気がして、その欲目がさらに私の回答を訳のわからないものにしてしまった。
A: 群落レベルの調査に関しては、我々がチームで取り組んでいますし、これまでの調査もありますから、データはもうある訳です。私がやったのは、それを研究者の利用できる形で引き渡す枠組みというか…調査データは、使える形に加工されているものばかりではありませんし、やりっぱなしっていう調査もある訳です。それをちゃんとした形で加工して、研究者に引き渡す枠組み作り、私がやってたのはそういうことだと思います。
* これで論点が完全にずれてしまった。あーあ、「枠組み作り」なんて大層な言葉は使わなきゃよかった。後で冷静になって考えてみると、「私がこの点についてやった仕事は、あくまでも林相図をパソコン上で利用できる形で地図情報化だけであって、それを使って研究者が流域の森林の炭素固定量を推定しました」って、それだけを言えばよかっただけなのに…「しまった、これはちょっとやばいかな」と思った瞬間、QL氏が口を開く。
QL: (ちょっと苦笑しながら)回答用紙を示して、ここに「地図情報化を行った」ってちゃんと書いてありますしね。あなたがやったのはそういうことでしょ?
A: …はい
QL: 論文ではちゃんと書いているようですし、どうやら別のところを読んで質問されたようですね…
* このコメントはなんとなくつぶやくように言われたので、最後のほうは良く聞き取れなかったが、「ちゃんと解答用紙を読んでたら、そんな質問は出ないだろうにねえ、お気の毒だね」と言っているように、その時の自分には感じられ、QL氏が非常に好意的であるという印象を受けた。でも、今になって考えると「あなたのやったのはあくまでも『地図情報化』だけでしょ? 『枠組み』なんて言ってよかったのかな?」、と突っ込まれただけなのかも知れない。正直言って私自身、この一連のやりとりでかなり混乱している。
QL: しかし、ここで書かれている「手書きの林相図をもとに情報化した」って表現は面白いね。これはポリゴンなんでしょ?
A: いえっ、手書きの林相図って言うのは色鉛筆で紙にかかれたものでして…
* 質問の意図を完全に誤解してしまった。「情報化したときに3Dのポリゴンデータに加工したのか?」という質問だった。 この林相図の電子化に当たっては、あえて2次元のCADデータにしたことで大幅にコストを削減したので、そのことを答えるべきであった。
QL: いや、それはそうでしょうけど… 
QR: ところで、いま「技術者の倫理」が問題になっていますが、その事についてどういう背景があると思いますか?
A: (やっと定番の質問だ…原発の話をしようっと) ええっと、最近の事例では、例えば東海村の… (しまった、東海村は臨界事故だった)、いえいえ、例えば最近の原発の事故隠蔽問題のように、企業の論理が社会の、ええっと、安全の確保と矛盾する状況が問題になっていると思います。このように企業の中のいわば、狭い村社会の論理が社会的な常識と食い違うということは良くあると思います。
私は公務員ですが、公務員の論理って言うのもだいぶ社会の価値観と食い違っていますので、企業だけでなくそちらのほうも問題になっていると思います。私自身、例えば学生への対応などでも、「もっとこうやってあげればいいのに…」って、思うことがあって上司の目が気になって親切にしてあげられないってこともありまして…(ああっ、また余計なこと言ってるよ、俺! とにかくまとめよう…)
とにかく、組織の論理だけでは問題のあることが多いので、技術者一人一人が自覚をもって、おかしいことはおかしいって、声をあげられるようにならないと、この社会うまくいかないんじゃないかって思います。
QL: あなたは今、ほとんど「技術士」っていうよりも「技術者」っていう視点でお話されていますね。それはもっともなのですが、「技術士」は制度として決まられているものですので、今度は制度として技術士はどう行動すべきか答えてください。
* この時私は。「えっ?制度としての技術士ですか?」と面食らったような顔をしたと思う。
QL: そうですよ。「制度として」ですよ。
* この時、わざわざ「制度としての…」」という言葉を繰り返したQL氏からは、「ほら、定番のあれですよ。大丈夫ですよね」と助け舟を出してくれているような印象を受けた。A: (ああっそうか!)技術士制度は、法律によって定められいるものですので、やはり技術者にはその法律を守ることが求められていると思います。ええっと、法律に定められている3つの義務と2つの責務についてお話していいですか?
QL: はい。どうぞ。
A: 技術士には3つの義務があります。1つめは「信用失墜行為の禁止」。これは技術士たるもの、その信用を失わせるような…ええっと、いい加減なことはしてはいけないということです。2つめは「秘密保持の義務」です。これは仕事の上で知った秘密をよそにもらしたり、盗用してはいけないということです。3つ目は「名称の表示の際の義務」です。これは技術士の名前を用いるときは、自分がなんの分野で資格を取得したのか、きちんと表示しなくてはいけないということです。
また、技術士には2つの責務があります。1つめは「公益の確保の責務」で、もう1つは…(あれ、なんだっけ?)、もう1つは…* もう1つがでてこないので、ちょっと焦る。(あっ、そうだ!) もう1つは「資質向上の責務」です。
QL: はい、いいですよ。(ここで突然にこやかな表情になって…)東京もだいぶ寒くなったけど、○○○はもっと寒いでしょう?
* 「いやあ、こっちに出てきたらあんまり暖かいんで驚きました」と言おうと思ったら…
QL: 気をつけてお帰りください。今日はこれでおしまいです。
* 不意の終了宣言に驚きつつも、「今日はありがとうございました」といって席を立つ。
案内の女性にもお礼を言って、ドアを出る前にもう一度振り向いて礼をしたら、二人ともこちらをじっと観察していたようだったので驚く。やっぱり最後までよく見ているようだ。

<感想>

以上、面接時間は25分であった。
口答試験終了後、すぐにホテルに帰って試験の様子を再現し始めたのだが、やはり細かいところでは記憶があいまいで、どうしても脚色が入ってしまうのはお許しいただきたい。実際の話し方はかなり早口の上に、ところどころどもってしまったので、こちらが言ったつもりのことでもちゃんと伝わっていたかちょっと自信がない。特に後半はかなり慌ててしまったので、質問の意味の取り違えた上に、だらだらと余計なことまでしゃべってしまった。
ただ、QL氏が終始にこやかに、うまく話を引き出すような形で進めてくれたのでかなり救われた。良くも悪くも、自分の持っているものがすべて出ていたと思う。その点では、現時点での自分を評価してもらえると思うので後悔はしていない。総合的な評価は「知識はあるようだが、プレッシャーに弱くコミュニケーション能力に問題あり」というところか。
桜のエピソードは自分でも出来すぎた話だと思うが、前日に渋谷入りして以来、都会の喧騒に押しつぶされそうな気がして、かなり気持ちが落ち込んでいたので、あの桜のおかげで助かったと素直に思っている。渋谷を離れる前に、道玄坂入り口のあの桜にお礼を言ってこようと思う。以上

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bQ:森林土木

森林部門(森林土木)口頭試験再現
○ 投稿者:浜の真砂(地方公務員48歳)
○ と き:平成18年12月10日(日)15:30〜15:50(正味約20分)
○ ところ:東京都渋谷区「フォーラム8」(前泊:品川プリンスホテル)
○ 試験官:2名( R側:大学教授OR林業関係団体の幹部風50歳後半〜60歳、L側:森林総研の研究者風40歳代→司会者)

○ 概 況
・ 試験開始が、15:30からであり、日帰りが可能であったが、念のため、前日に上京し、品川プリンスホテルに宿泊する。
・ 当日は、11:00頃チェックアウトし、朝食兼昼食を済ませた後、12:00頃会場入りし、受付後、控え室で待機する。 (控室内は緊張感が漂い異様な雰囲気であった。)
・ 係の女性が定刻に呼び出しを行い、その案内で会場へ入室する。女性がドアを開けたのでノックは必要なかった。 
  (会場へ向かう途中、女性から、入室に際し、受験番号、氏名を告げるよう指示があった。)
「受験番号○の○○番、△県から参りました○○と申します。よろしくお願いします。」

○ 試験官の問いかけとその答えぶり
Q(L):では、受験動機を伺います。
A   :公共事業予算が削減される中、公務員技術者にも費用対効果、技術力が求められています。
    公務員技術者として資質の向上に努めたいと考えています。
    △県では、現在森林部門には、3名の技術士しかおらず、私が技術士を取得することで技術職員全体の励みになると思い受験しました。
    また、森林、緑に対する県民の期待は高いものがあり、将来を担う子ども達に森林の大切さを伝えたいと思っています。
Q(R):(経験論文をめくりながら)
    私は、林道は、ある程度コスト削減が可能だと考えているが、治山においては、コスト削減は限界があると考えて いるがどうか。
    (厳しい表情で、敢えて否定的な質問が飛んできた。)
A  :確かにそういう面もありますが、治山においても、例えばリングネットとか、スリットダムなど2次製品を使用することによりある程度のコスト削
    減は可能であると考えております。
Q(R):(経験論文をめくりながら)透過型治山ダムを採用したとあるがどんなものか。
A   :スリットダムB型です。
Q (L):(経験論文をめくりながら)スリットダムを実施しているが、安定計算はどのように考えているか。
A   :土砂がたまる前提で計算し、土石流も加味しています。
Q(L):(経歴を見ながら)治山事業を経験されていますが、例えば、地盤が悪い時にはどのように対処しますか。例えば、県では、N値がいくらならば 
    どうだといような基準などありますか。
A  :鋼製自在枠を採用します。(N値の基準等については応えず、ただ基準はないみたいなことを答弁したみたいだ。)
Q(L):鋼製自在枠も考えられますが、実際にコンクリートダムを施工中の場合はどのようにしますか。
A(L):支持杭を打ちます。
Q(L):支持杭ですね。それと、あと「置換」もありますね。
    (優しく教えてくれている雰囲気であった。)
A   :あ、そうです。置換もあります。(あわてて、答えた。)
Q(L):次に、県では、ダブルウォ−ルダムは採用していますか。
A   :すみません。帰って勉強します。
    (実際聞いたことはあったが詳しくわからなかったため、目で試験官に降参の合図するとそれ以上追求されなかった。当方の知識ためす狙い
     があったようだ。)    
Q(L):(経験論文を見ながら)リングネットを実施されていますが、課題は何ですか。
A   :実際に落石があった場合の維持・管理が大変です。(試験官納得の様子)
Q(L):実際に落石はありましたか。
A   :今のところあっておりません。
Q(L):リングネットは、他にどのような場合に採用されますか。
A  : (しっまた。わからない。でも、さっきダブルウォ−ルダムで1回パスをしているため何か応えなければと思い、一か八かの賭けに出る。)
    例えば、なだれ防止にも採用できると思います。
    (試験官沈黙、見事見当がはずれてしまった。ショック、やはりわかりませんと言えばよかったと後悔する。)
Q(L):谷止工の代わりにも使われていますよね。(教えてくれている雰囲気)
A  :そのことを思い出し、さらに、作業道など仮設的に使用されることを説明する。
Q(L):そうですね。仮設工にも使われていますね。
Q(L):「○○」地区でのリングネットはどうですか。
    (試験官はなんと△県の現場を知っていた。驚くとともに、うかつなことは答弁できないという緊張が走った。)
A  :私が採用した現場は、「○○」地区ではなく、△市の「××」という現場です。
Q(L):(再度経歴をめくりながら、私が△市で勤務していたことを確認し、納得した様子。)
Q(R):(経験論文をめくりながら)目標林内照度を20%に設定し、間伐率25%を上限に施業指針を策定しているが、私はそんなことよりも、林内は 
     直ぐに暗くなるため、もっと間伐率を強度にすべきで、その方が経費的にも有利ではないかと考えるがどうか。
    (例によって、厳しい表情で、また、否定的な質問を浴びせる。)
A   :私も確かに今はそう思いますが、当時(平成9年)は、保安林の伐採率は材積率で20%以内に制限されていたため、それに従いましたが、 
     今は、規則の改正により35%まで可能となっており、再構築を図る必要があると考えています。
Q(R):木材を利用した残置式型枠を採用しているが、腐ったらどうするのか。
A  :(やっと想定問が当たった。)腐っても治山ダムの構造上問題ないので、そのまま残置させ腐らせます。
    (それ以上議論にならず。話題が変わる。)
Q(L):最近の土砂災害の発生形態についてどのように考えているか。
A  :(問題が抽象的すぎて、しかも試験官は詳しそうなで、一瞬あわてる。)
    最近は、雨の降り方、台風など異常とも思える状況であり、本県でも今年、土石流災害が発生しました。
    (あまり回答になっていないことはわかっていたがとにかく答えた。)
    特に、今年秋、△市では、土石流災害が甚大でした。
Q(L):あなたの県では死者が出ましたよね。
    それは確か××市ですかね。
    (やはり、試験官は本県のことを詳しく知っている。しかも土地勘がある。この人いったい何者なの? 不安がよぎる。)
A  :△市では死者はでていません。××市で2名発生しております。     
Q(R):△市のその場所は、ハザードマップの危険地域に入っているか。
A  :確認していませんが入っていると思います。
Q(R):(何か独り言をいいながら)○○だから入っているはずだな。(一人で納得)
Q(L):県では、土砂災害対策ではどのような事が課題となっていますか。
A   :私は、治山と砂防の連携が不可欠だと思います。例えば、同一渓流の場合、規模決定に際して情報を共有し、無駄をなくすことなどが必要と  
    考えています。
Q(L):治山と砂防は、土砂抑止などの考え方が基本的に違うため、連携といってもなかなか難しいですよね。
A  :(だんだん不利な状況となり、もし、砂防の専門的な考え方を聞かれたらやばいと感じつつ) △県では、旧土木と林務が一体となった組織とな
    っており、連携がスムーズに行われています。 
Q(R):旧土木と一緒の組織となっているのですか。(すこし驚いた様子)
A  :はい。
    (かなり答弁に苦戦し、あとどれくらいの質問があるのか気になり、部屋の時計をチラッとみると丁度20分経過していた。まだ10分も残ってい  
    る。早く終わって欲しい気分であった。)
Q(L):(話題が変わり) △県には、技術士が3名しかおらず、あなたは、将来子どもたちを指導したいとのことですよね。
A  :はい、これからは、森林環境教育が大切であると考えています。
    将来を担う子供達に森林のすばらしさを伝えていきたいと思います。
Q(R):(Lが時間を確認し、Rに合図) 
    それでは、技術士の3義務2責務についてお尋ねします。
A  :(ようやくフィナーレにたどり着いた感じとなり、声高らかに?)
    3義務とは、信用失墜行為の禁止、秘密の保持、名称表示の場合の義務
    2責務とは、公益の確保、資質の向上です。
     (あまりの安堵感に、ただ、単にこのように述べただけで、中味については具体的に説明しなかった。いや、する余裕がなかったかも知れな 
     い。あとで反省する。)
Q(R):はい。
Q(L):これで終わります。どうもお疲れ様でした。
A  :ありがとうございました。   
    起立し、ドアの前で再度、「つたない説明ですみませんでした。ありがとうございました。」とお礼を述べて退室する。

○感想:もともと、2例詳述(保安林の施業指針、木材利用)に重点を置き、口頭試験に臨みましたが、予想がはずれ、それ以外の技術的経験で  
     あるスリットダム、リングネットについて集中的に質問され、あせってしまいました。
     しかし、念のため、一応、チェックはしておいたので何とか乗り切れました。
     また、試験官(L)が私の県の事情(土地勘も含めて)に詳しいことが分かり、うかつなことは答弁できないと思いかなり神経を使いました。
     ただ、質問するその目は非常に優しく、終始当方を合格させようという気持ちが伝わってきました。
     一方、試験官(R)は、厳しい表情で、敢えて否定的な質問を行い、こちらの反応、実力を試すような雰囲気でした。 多分、2人で役割分  
     担をしていたのではないでしょうか。
     筆記試験合格以来、慌てて口頭試験対策を行い、本番では、かなり苦戦しましたが、今では、一生忘れられない素晴らしい経験をさせて 
     頂いたと言う思いであり、試験官の方には、改めてお礼を申し上げたい気分です。
     森林部門を目指すみなさん。森林部門の試験官は、紳士的で優しいですの安心してチャレンジしてください。