筆記試験対策〜選択科目(課題解決問題) 最終更新:2018.06.15
TopPage 試験概要 過去問題 出願対策 択一問題 専門問題 口頭試験 体験記

=CONTENTS=
1.出題内容
2.求められる答案
3.答案の作り方
4.主要な重要テーマの解説
5.一歩深めた設問が勝負を分ける
6.部門・科目別の出題傾向と対策

 選択科目の課題解決問題対策について、建設部門を中心に記しています。
 出題内容の予想もしていますが、これは「絶対こうなる」というものではなく、あくまで私の予想です。ただ、技術士会から公表された資料を素直に読むとこういうことだよね、という、それなりに根拠のあるものではあります。
 なお、受験対策は人それぞれです。それぞれの立場で、ポイントは変わってきます。また、若年層・熟年層でも変わってきます。 うのみにするのではなく、参考にできるところは参考にするというスタンスでお読みください。

答案用紙はA4サイズ・600字詰めです。
模擬練習用答案用紙を用意しましたので、お使いください。ダウンロード時は2ページですが、2枚目を超えると自動的に3枚目が現われます。
なお、この答案用紙はすごろくさんよりご提供いただいたものです。
問題3答案用紙

1.出題内容

 25年度から新設された問題です。答案は記述式で、600字詰め答案用紙3枚以内です。また試験時間は2時間で、同じ時間で答案用紙4枚を書く専門問題より余裕があります。
 課題解決問題の答案は、口頭試験において合否を分けるであろう「経歴及び応用能力」の評価に使われますから、筆記試験の中でも特に重要な問題です。
確認す
る能力
課題解決能力
概念 社会的なニーズや技術の進歩に伴い、最近注目されている変化や新たに直面する可能性のある課題に対する認識を持っており、多様な視点から検討を行い、論理的かつ合理的に解決策を策定できる能力
内容 選択科目に係わる社会的な変化・技術に関係する最新の状況や選択科目に共通する普遍的な問題を対象とし、これに対する課題等の抽出を行わせ、多様な視点からの分析によって実現可能な解決策の提示が行えるか等を問う内容とする。
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2.求められる答案

  • 基本的な考え方
     問題Vは課題解決能力を評価する問題です。課題解決能力とは、課題を抽出し、多面的に分析して実現可能な提案をすることができる能力です。では何を持ってその能力があることを判断しているのでしょうか。つまり採点しているのでしょうか。
     それは、現状分析→課題抽出→解決の方向性→具体策提案というプロセスです。つまり提案の良し悪しではなく、その提案に至る過程の良し悪しで判断していると思われます。
    問題文 課題等の抽出 実現可能な解決策の提示 
    社会的重要テーマ 現状 課題・ボトルネック 解決の方向性 具体策 リスク・課題等
    ・求められること
    ・望ましい姿
    ・好ましくない現状


    →問題文で示された
     「あるべき姿」との落差
    ・好ましくない現状を解消する
     ためになすべきこと

    →ボトルネック、「これを何とか
     すればいい」というもの
    ・「こうすればいい」と
     いう着想・方向性

    →課題を裏返したもの
    具体的な提案 具体策の実行にあたって
    考えられるリスク・課題

    →マイナス副作用など
     
    (例)老朽化インフラの
    効率的な維持管理更新
    損傷が顕在化してから
    補修等しており非効率的
    事後保全からの転換 予防保全と平準化 アセットマネジメント 予防保全に転換しても
    予算が不足→選択と集中

     ここで特に重要なこと(得点に差がつくこと)は、
    ●解決策として@方向性、A具体策という順に提案すること
    ●リスク・課題等まで調べておくこと(自分の頭の中だけで考えないこと)

    の2点です。

  • 解決策を方向性→具体策という構成にすること
    これにより、「理詰めで考えていった結果、この提案に到達しました」という形になります。この「理詰めで考えていった」が課題解決プロセス、課題解決の手法であり、以下の手順で進めます。
    1. まずあるべき姿と乖離している現状を洗い出し(検討すべき項目・検討すべき課題)
    2. そこから重要な課題を絞り込み(他のどれよりもこれを何とかすべきだという絞り込み。ボトルネックの抽出)
    3. それを裏返して解決の方向性を導き出し(たとえば事後保全なのを何とかすべきだということであれば、事後保全を裏返して予防保全に)
    4. その具体策を提案するというプロセスです。※筆記試験セミナーテキストp.52参照
    上記1〜4の順に検討していくことで課題を解決するという方法を知っていて使いこなせること、これが課題解決能力です。よって@〜Cのプロセスを答案上に明確に書く必要があるのですが、1と2は問題文指示に従っていけば抜け落ちるということはまずありません。
     しかし3と4については、問題文には「解決策を提案せよ」といったようなことしか書いてないため、しばしば4しか書かないことがあります。つまり解決の方向性なしにいきなり具体策が出てくる形です。これでは「理詰めで考えていった結果、この提案に到達しました」ではなく、「この提案を知っています」「この提案を思いつきました」にしかなりません。それがなぜいけないかというと、単に「知っていた」「思いついた」だと、次にまた何かの課題解決に取り組んだ時、具体策を知っていたり思いついたりすればいいですが、そうでなければもうアウトになります。しかし課題解決の方法を知っているのであれば、その方法を適用すれば解決できることが期待されます。そこには知識はいりません。
     「こういうことが望まれている。ではそれと乖離した状態になっている現状はどんなことがあるだろう」と考え、そんな現状を調べればいいのです。これで検討すべき現状・項目は洗い出せます。
     次に「じゃあその中で最も何とかしないといけないことはなんだろう」と考え、いろいろな方向から現場を分析すれば、元凶となっていること(事後保全であるとか、ハード防災インフラだけでは防ぎきれないとか、つまりボトルネック)が抽出されます。
     そしてその抽出された課題を裏返して考えて、「どんなふうにすれば解決するだろうか」と考えて方向性を出します。
     方向性が出たら、その方向性を具体化するような技術・施策を探せば(そういうものがなければ新規に発案すれば)、それが具体策になります。それは調べればいいことです。
     つまり、上記のような手順で考察していけばいいのだということを知っていて、それを実行することができる能力、これが課題解決能力です。これは手順ですからどんな課題に対しても適用できます。
     対して具体策を知っているかどうか、思いつくかどうかだけで勝負すると、知っているもの・思いつけるものにしか対処できません。これでは安心して高度な課題解決はまかせられません。つまり技術士にするわけにはいきません。
     以上が課題解決能力です。ですから答案は提案内容の善し悪しで得点するのではなく、提案に至るプロセスの善し悪しで得点します。判定しようとしているのは対策を知っているかではなく、対策の導き方を知っているかなのですから、対策だけ書いてもダメですよね。
     すなわち、社会的重要テーマについて、課題を抽出し、多様な視点から実現的な解決策を提示することが求められます。したがって、この3点が採点基準だと思ってかまわないと思います。

  • リスク・課題等まで調べておくこと
     問題Vがかつての建設一般と一線を画しているのが、設問(3)の内容、すなわち課題解決策をいったん提示させたあとで、その実現策や実行に伴うリスク・負の側面とその対応策といった、さらに突っ込んだ、一歩深めた内容を考察させる設問が出るようになったことです。
     これらは白書の内容を表面的になでただけでは答えられません。白書で紹介されているような施策はあくまで方向性に過ぎず、それを実際の現場で実施するに当たっては、様々なリスク・課題が生じることを予見し、その顕在化を最小限にとどめて施策をできるだけ高いレベルで実現することが必要になります。つまりマニュアル(白書)に書いてあることをそのまま鵜呑みにして覚え、それをそのまま書けるとしても、それは技術士にふさわしい技術力とは到底言えないのです。
     ではその一歩深めた設問には、オリジナルで考えて答えればいいのでしょうか。その場合も多くあると思いますが、やはり技術者なのですから自分の頭の中だけで考えた・想像したことだけでなく、様々な実例や意見を学び、それらを自分の中で消化してひとつの意見をまとめることが望まれます。
     そういった「一歩深めた考察」の参考になるのが、白書より一段と詳細な資料情報で、国交省HPや内閣府HP、さらには国総研HPなどで勉強することができます。
     白書丸写しのような答案なら誰でも書けます。そこからさらに一歩深めた答案が書けるかどうかが合否を分けると思ってがんばりましょう。

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3.答案の作り方

  • 骨子法の活用
     前述のように問題Vは、
      @社会的重要テーマについて
      A課題を複数抽出させ
      B施策等を踏まえた解決策を提案させる
    という基本構成の答案を600字詰め答案用紙3枚に記述させる問題なのですが、この内容・記述量は24年度以前の必須科目と同じでえす。しかし試験時間が30分短くなっているので、問題を見てから書くべき内容を考えて骨子を組み、答案文章を書くのは時間的に厳しくなっています。
     そこで、上記@〜Bの構成があらかじめわかっていること、社会的重要テーマはそれほど多くはないことから、主要な社会的重要テーマについて、課題と解決策をあらかじめ複数用意しておき、出題内容に合わせて組み合わせて答案骨子を作ることが有効です。
    以上、課題解決問題は、専門分野(選択科目)における社会的重要テーマに関して、課題(ボトルネック)を多様な切り口で抽出して、それに対して現実の施策等を踏まえた実現性のある提案をすることが求められるわけですが、こういった問題の答案は、テーマに関するしっかりした知識と課題解決策を提案する論理構成力が必要です。そして論理構成は、骨子法を使うと効率的にまとめられます。特に課題を複数あげる場合、骨子表などに整理しておかないと、課題と解決策がズレてしまうことがよくあります。
     社会的重要テーマについては、ほとんどの場合、その解決のための具体的な施策が提案されています。
     そしてその施策は、現状を踏まえ、ボトルネックを抽出し、これを解消するための方向性・あり方を導き、それを実現するための方策として策定されたものです。
     したがって、前出の課題解決骨子は、社会的重要テーマに応じた施策が提案される過程をなぞったものに近くなり、以下の骨子表で示すような内容になります。これは「自分でオリジナルに考えたもの」ではなく、「施策の策定に至る背景・過程を整理したもの」に近くなります。
    社会的重要テーマ 現状 課題・ボトルネック 解決の方向性 具体策 リスク・課題等
    ・求められること
    ・望ましい姿
    ・好ましくない現状


    →問題文で示された
     「あるべき姿」との落差
    ・好ましくない現状を解消する
     ためになすべきこと

    →ボトルネック、「これを何とか
     すればいい」というもの
    ・「こうすればいい」と
     いう着想・方向性

    →課題を裏返したもの
    具体的な提案 具体策の実行にあたって
    考えられるリスク・課題

    →マイナス副作用など
     

     骨子法を使って答案を作る手順を、前掲の平成25年度建設部門道路科目の課題解決問題V-1を使って示します。

    問題文:建設部門道路科目問題V-1
    道路構造物の老朽化に伴い様々な不具合が発生しており、今後さらに、その状況の深刻化が懸念される。これに関し、道路に係わる技術者としての立場から、以下の問いに答えよ。
    (1) 老朽化に伴う道路構造物の機能や健全性の低下が社会に与える損失・影響について述べよ。
    (2) 道路構造物を適切に維持管理する上での課題及びその解決策について、複数の観点から述べよ。
    (3) (2)で述べた解決策の実施に当たり、実効性をより高める上での留意事項を述べよ。
    25年度建設部門道路科目の選択科目T-1の答案骨子(事前に準備していた内容からピックアップ)
    問題文 現状 課題・ボトルネック 解決の方向性 具体策 リスク・課題等
    ・道路構造物機
     能・健全性低
     下が社会に与
     える損失・影
     響
    ・維持管理上の
     課題と解決策
    ・複数の観点
    ・解決策実施の
     実効性を高め
     る留意事項
    @2032年に65%
     が建設後50年
     経過→老朽・劣
     化で事故・災害
     発生懸念
    A少子高齢化社会
     福祉費増加、所
     得税法人税減少
     維持管理必要道
     路構造物膨大
    @事後保全型で高コス
     ト構造
     長期的視点なくプラ
     イオリティ不明確

    A財政難
     整備が追いつかない
    →行政のみによる財源
     確保・計画策定・維持
     管理が限界
    @予防保全型管理に
     転換



    APFI導入、新しい契
     約・発注形式
     従来の行政のみの
     財源確保、計画策
     定、維持管理を時代
     変化に合せ見直す
    @アセット適用→長寿命化・更新期コ
     ントロール
     LCC縮減のため点検診断、劣化予
     測、保全履歴等をDB化

    A PFI事業化
    →長期保証型性能規定型等の契約・
     発注方式を積極採用→民間資金技
     術有効活用
     長期的視点で計画・設計、施工、維
     持管理一貫発注・契約へ転換
    ※平成25年試験時点では
     こういった設問を予想し
     ていなかったので骨子の
     準備はしていなかった
    1. 問題文:問題文に書かれている内容を箇条書きに整理します。答案には書かなくてもかまいません。わざわざ書くのは、頭の中の整理と、問題文の指示からずれた答案を作ってしまうことの防止のためです。
    2. 現状・原因:問題テーマに関する現状やそういったことがテーマになる原因等を整理していきます。最初から課題を決めておいて、その根拠となるような現状をあげてくといいでしょう。
    3. 課題:ボトルネックをあげます。元凶→結果という構成、つまり「これが元凶になって、こういう困ったことになる」といった構成で書きます。書きぶりとしては、「○○(元凶になるもの)により、こういうことができない・困難である」といったものになります。
    4. 解決の方向性:問題点抽出を受けて、「元凶解消」か「結果改善・代替」のいずれかの方向性を導きます。元凶解消は、「事後保全で高コスト等不具合が生じる」→元凶である事後保全を何とかしよう→「事後保全でダメなのだから予防保全」というようなものです。結果改善・代替は、「少子高齢化で行政だけでは予算確保限界」→元凶の少子高齢化をどうにかすることは難しいし、技術的解決の方向性ではない→結果である「行政だけでは予算確保限界」をどうにかしよう→「行政だけでは限界なのであれば民間からも予算確保」→民活導入というようなものです。
    5. 具体策:方向性を受けて具体策を書きます。前述したように、完全に自分自身で考えたオリジナル提案よりも、実際に提唱されたり実施されつつある具体策を列挙したほうが、試験答案としては手堅いものになります。言い換えると、現実の施策や技術的対応策について、どんな考え方や狙いに基づいているのか(方向性)、その方向性はどのようなボトルネック解消あるいは結果を緩和するためのものなのか(課題)というように理解していると、課題解決ストーリーは簡単に書けます。
     以上のようにして作成した骨子から答案を作成すると下に示す答案のようになります。(実際のA評価答案例)
     「1.はじめに」は問題文をほぼ丸写しで引用しています。自分自身で一から考えて書いたり、あらかじめ用意してきた「はじめに」を書いたりすると、時に題意とズレてしまう(と採点者が感じる)ことがありますが、問題文を引用している限りにおいては題意からズレることはありません。何より文章を考える時間が不要で楽です。なお、「はじめに」はなくてもかまいません。
     「2.社会に与える損失や影響」は設問(1)への解答ですが、これはあらかじめ用意してあった骨子の「現状・原因」の内容を使っています。現状と社会に与える損失等では必ずしも一致してはいないのですが、明確にズレているわけでもないので、強引に押し通しています。
     「3.維持管理する上での課題」と「4.課題に対する解決策」は設問(2)の解答ですが、あらかじめ用意してあった骨子から作成しています。なお、骨子は3つ以上用意してありました。しかし予想外の設問(3)が加わったので、2つに絞って書いたとのことです。また内容をその場で考える場合でも骨子のように課題と解決策の組み合わせが一目でわかるようにしましょう。課題を考えて答案用紙に書き、解決策をまた考えて…という方法だと、課題と解決策がズレてしまうことがままあります。
    ここまでは、あらかじめ用意してあった内容を書いていたり、問題文を引用していたりしているので、時間はさしてかかりません。試験現場で考えることは、「何を書こうかな」ではなく「どれを書こうかな」であり、時間の節約になるとともに、「その場で考えたこと」より「あらかじめ練り上げてあったこと」のほうがいい答案になるに決まっていますから、他の受験生に比較して格段に有利になります。
     「5.実効性を高めるための留意事項」は設問(3)の解答dすが、予想外の設問だったので、こればかりはその場で考えています。ただこういったことについてもAPEC-semiマンツーマン講座の中でやりとりしていたので、「何を書こうかな」と「どれを書こうかな」の中間程度であったようです。
    この答案はA評価を取りましたが、「ギリギリA評価」ではなく、悪くとも70点以上はある「余裕でA評価」だと思います。

     この事例のように、社会的重要テーマについてあらかじめ3つ程度の骨子(現状原因→課題→解決策)を用意しておくことで、短時間に練り上げられた答案を書くことができるようになります。
     なお、下の例のようなボリュームの答案を作るためには、前頁程度の骨子ボリュームで十分です。この必要骨子ボリュームを把握するため、また試験現場で効率的に答案文章を書くためには、過去問題や練習問題に対して、答案骨子を作り、それをもとに答案を作るというトレーニングを積むことが有効です。これは一人だけでやっていてもなかなか動機づけが難しいので、答案を添削してもらうという目標を持ち、またアドバイスを受けることでロジック構成・文章表現能力を鍛えるといいでしょう。
    平成25年度 建設部門道路科目 問題V A評価答案例(Nomuさん)
    1.はじめに
     我が国の道路構造物は、老朽化に伴って様々な不具合が発生しており、今後さらに深刻化することが懸念されている。
     このような状況を踏まえ、道路構造物の機能や健全度の低下が社会に与える影響や維持管理上の課題と解決策について、道路に係わる技術者としての立場から以下に述べる。
    2.社会に与える損失や影響
     我が国の道路構造物は、経済成長等とともに着実に整備されてきたが、特に高度経済成長期に建設された橋梁は、20年後の2032年には全体の65%が建設後50年を経過することから、老朽・劣化による大きな事故や災害の発生が懸念されている。
     このような事故や災害が発生すると、地域の孤立が発生し、緊急医療機関等へのアクセスを確保できない。
     また、老朽・劣化により構造物の耐力が低下していることから損傷を受けやすくなっており、もし大規模地震等が発生して損傷に至れば、災害時の救命・救援物資の輸送などの応急活動や復旧・復興活動が困難となることが考えられる。
    3.維持管理する上での課題
    (1) 維持管理手法の課題
     現在の維持管理手法は、老朽・劣化が進行してから対応する事後保全型であり、対策が大がかりで高コスト構造となっている。
    また、長期的視点がなく、整備プライオリティも不明確であるため、更新期のコントロールが困難となっている状況にある。
     したがって、老朽・劣化が進行する中、適正かつ継続的な維持管理手法になっていないことが課題である。
    (2) 行政による運用の限界
     我が国は、少子高齢化による社会福祉費の増加、人口減少と労働力の不足による所得税と経済不況による法人税の減少で、未曽有の財政難に陥っている。
     さらに維持管理を必要とする道路構造物の量は膨大で、その整備も追いつかない状況にある。
     したがって、行政のみによる財源の確保、計画策定、維持管理に限界がきていることが課題である。
    4.課題に対する解決策
    (1) 維持管理手法の確立

     適切かつ継続的な維持管理・更新を行っていくには、現在の事後保全型から予防保全型の管理に転換する必要があると考える。
     具体的には、アセットマネジメントを適用して、道路構造物の長寿命化を図り、更新期をコントロールする。
     また、長期的視点でライフサイクルコストを縮減するために、点検・診断、劣化予測、保全履歴等をデータベース化していくことも重要である。
    (2) PFI導入、新しい契約・発注形式による整備
     従来の行政のみでの財源確保、計画策定、維持管理といった一辺倒の運営を時代の変化に合せて見直す必要があると考える。
     具体的には、PFI事業化を検討し、長期保証型や性能規定型等の新しい契約・発注方式を積極的に採用して、民間の資金や技術を有効に活用する。
     今後は財源の確保はもとより、長期的視点で計画・設計、施工、維持管理まで一貫した発注・契約へと転換する必要がある。
    5.実効性を高めるための留意事項
     ここでは、維持管理手法において挙げたアセットマネジメントにおける留意事項ついて述べる。
     アセットマネジメントの実効性を高めるには、点検・診断技術の向上が必要不可欠である。
     例えば、従来の技術者による近接目視や打音検査に加えて、目視困難な部位の調査に非破壊検査を用いることが有効であると考える。
     従来のハツリ検査に代えて、橋梁では超音波による亀裂や赤外線による浮きの確認、トンネルではCCDカメラ画像による調査やレーザーによるひび割れの確認などを行う。
     このように新しい技術を積極的に採用し、実効性と技術の向上を図りつつ、道路構造物を保全していくことも有効である。

  • 社会的重要テーマ
     問題の題材となる社会的重要テーマですが、それほど多くはありません。主なものを以下にあげます。特に重要なのは@〜Bです。
    @災害(災害への粘り強くしなやかな対応)
    A老朽化インフラの維持管理(インフラ長寿命化)
    B生産性向上(i-Construction、担い手確保&経営改善、教育・技術継承)
    C地域づくり(コンパクト+ネットワークなど)
    D都市再生
    E環境保全
    F官民連携、市民協働
    G観光立国



     これらについて、課題と解決策を様々な施策を参考にまとめておき、出題された問題に合わせて「引き出しを開ける」ように解答骨子を作って答案を作成することで、短時間に良質の答案を作ることができるようになります。
    なお、これらのテーマはそれぞれが独立しているわけではなく、互いに密接に関連しています。たとえば防災インフラの老朽化を考えれば@とAをともに考えることになりますし、Bはつまり担い手確保のことですから多くの問題で取上げることができるテーマです。CとDは重なる部分が多いですし、いずれも老朽化インフラ対応や防災減災を取上げる余地が多分にあります。
    つまり、@〜Gは、それぞれが問題Vの問題と1対1で対応しているものではなく、@〜Gを組み合わせて最適な答案を作るようにするための「パーツ」であるという理解をしてください。
    また@〜Gで全ての答案ができるわけではありません。専門技術的視点の強い問題では@〜G以外の事項についても述べなければならないでしょう。ただ多くの問題では@〜Gを組み合わせれば答案の大部分はできます。

     なお内容は科目ごとに異なってきます。たとえば災害については、土質基礎科目であれば土砂災害(中でも特に深層崩壊や地すべり)や液状化などが重要になってきますが、河川砂防科目であれば水害や津波が重要になるでしょう。一方道路科目は防災インフラを作ったり維持管理したりする科目ではありませんから、地震等に強い道路構造物や重大災害時の交通ネットワーク確保(たとえば無電柱化)なども重要テーマになるでしょう。また都市計画では災害に強いまちづくりが中心課題になるでしょうし、建設環境では防災と環境保全の両立がテーマになったりします。このように、科目によって何が重要かが異なってきますし、場合によっては出題の可能性が低いものもあるでしょう。このあたりは柔軟に考えてください。
    これら重要テーマについて全体像をつかむにはやはり国土交通白書は必携でしょう。個別テーマについてはさらに詳細な資料がありますが、まずは白書で全体像をつかむことで個別テーマ資料の理解度が深まります。
    また、国土のグランドデザイン2050も国土交通白書以上に包括的です。特にこちらは課題からの考察がありますので、施策(解決策のうち具体策)だけでなく課題・ボトルネックや解決の方向性について理解を深めることができます。
    さらに、国土交通省重点政策2016や国土交通省生産性革命プロジェクトは最もホットなとりまとめ文献ですので、必ずご熟読ください。

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4.主要なテーマの解説

 以下にインフラ整備に関する主要な重要課題について整理しておきます。現状、課題点、解決策とも様々なものがありますから、問題文をよく理解して、題意に応じた現状記載・課題抽出・解決策提示を行うようにしてください。

  1. 防災・減災関連
     大きなポイントは、ハード・ソフト施策を組み合わせた対応です。
     東日本大震災における津波だけでなく、平成27年鬼怒川決壊でも線状降雨帯による異常な豪雨と異常出水により越水→裏法洗掘→破堤という現象が見られました。今後は想定外の豪雨に伴う想定外外力を見通せば、ハードだけに頼る防災はもう限界で、ハード&ソフト、防災&減災で対応する必要があります。従来のハード整備ではスペック的に対応しきれない外力に対して、「粘り強く壊れる」構造にしておくことで時間を稼ぎ、その間にソフト対策で減災という方向性です。また防災・減災インフラの多重化により被害低減と減災対策の効果向上を狙います。
     なお、ソフト対策については、一口に「減災」といっても情報提供(ハザードマップなどによる災害リスクや避難に関する住民へのかねてからの情報提供と、ICTによる災害発生情報のいち早い伝達)、意識啓発(避難に関するもの、災害にあわないための土地利用や行動などに関するもの、地域互助に関するものなど)、災害弱者対応など多岐にわたります。

    現状・原因 課題
    (ボトルネック)
    解決の方向性
    ・温暖化に伴う気候変動
    ・災害の激甚化
    ・防災意識の向上
    ・防災意識低下
    ・少子高齢化
    ・被災高リスク地の開発等
    ・公共投資減少
       
    ●ハード整備の限界


    ●地域防災力の低下


    ●大規模自然災害に対する社会構造脆弱性
    ●ハード&ソフトで対応
    ・ハードソフトベストミックス
    ・ハードは「粘り強い構造」
    ・ソフトは減災(自助・公助・共助)意識啓発・情報提供:ハザード
    マップや危険地域指定等「リスクの見える化」、X-RAINなど
    自主防災組織等により災害弱者を地域で守る共助
    ●災害に強い社会構造に
    ・防災力のある都市構造
    ・リダンダンシー

    特に近年はソフト(減災)のほうにウェイトがうつっています。
    (自助)
     意識啓発→リスクの見える化:わかりやすいハザードマップ・危険地域指定等
     情報提供はPUSH型で。X-RAIN等活用。ビジター(特にインバウンド)への情報提供が問題
    (公助)
     各省庁が連携したタイムライン
    (共助)
     災害時要援護者を地域で助ける…自主防災組織等
    防災減災対策本部の資料等には目を通しておくといいでしょう。

  2. 老朽化インフラの維持管理
     インフラ老朽化対策については、国土交通省インフラ長寿命化計画・同行動計画を中心に理解を深めるとともに、ストック効果の視点も持つようにしてください。
     またインフラ長寿命化計画(行動計画)の内容もチェックしておくといいでしょう。

    現状・原因 課題
    (ボトルネック)
    解決の方向性
    ・高度経済成長期建設インフラの多くが
     老朽化し、今後20年以内に50年以上
     経過、一斉に更新期迎える
    ・少子高齢化社会保障費増等により公共
     事業予算ピーク時の1/2
    ・建設業就業者減少、若い人材少い今後
     はマネジメント技術必要、技術習得必要
    ・膨大な老朽化インフラの点検が手が回ら
     ない
    ・建設産業が衰退し技術者が減少している

       
    ・事後保全で高コスト構造、長期
     的・体系的視点なくプライオリ
     ティ不明確
    ・予防保全・長期的・体系的管理
     手法→アセットマネジメント
    ・少子高齢化、社会保障費増大→
     行政のみで予算確保限界
    ・官民の分担枠組みを見直す(PFI等)
    ・現場に応じ適切対応できる人材
     不足、業務量減少で技術継承困難
    ・OJT依存から脱却したOJT+OFFJT
     の教育、団塊世代暗黙知をDB化など
    ・点検に手間とコストがかかる ・ICT活用、非破壊点検技術の開発
    ・日常管理や点検等に従事する技
     術者が不足
    ・市民協働による日常管理や点検
     (アダプトシステム含む)

  3. 生産性向上
    いわゆる担い手不足の話です。少子高齢化・人口減少が背景にあるのですが、2つのテーマに分かれます。

    ●技術者・技能者不足
    つまり「量の不足」です。少子高齢化・人口減少で生産人口が減少しているという、大元の「分母」が減っているうえに、建設分野の3Kイメージや低収入等が重なって従事者が減少しているところへ、震災復興をはじめとする災害対応や東京オリンピック等で需要が増えたため需給バランスが崩れ、全産業の中でも特に人出が不足して生産性が落ちています。
     これについては2つの解決の方向性があります。
     1つは人材確保で、処遇が悪いことが大きな元凶ですから、処遇改善が方向性になるのですが、それが容易にできれば誰も苦労はしません。ここで企業経営につながっていくのです。長引く建設不況の中、建設業者の多くが経営体力を喪失しています。そのため処遇改善ができないのはもちろん、重機類を手放し、それに伴いオペレーターも手放しているため、人・モノ(機械)の面でリソースが弱体化しており、災害復興や維持管理といった重大な業務を担う体力がなくなりつつあります。
     そこで出てくるのが地域維持型発注方式です。これはあくまで一例ですからこれだけを書いてはいけませんが、地域をまとめて(そのかわり受注する側も数社でまとまって)維持管理をまかせることで、継続的な受注が担保できるため、企業は資金繰りも楽になりますし、重機所持やオペレーター雇用育成のインセンティブとなります。そしてなにより処遇改善につながっていきます。なお、国土のグランドデザイン2050では以下のような方向性が打ち出されています。
    ・建設産業における処遇改善のため、適切な賃金水準の確保、社会保険加入の徹底に加え、週休二日制の普及やダンピング対策の強化を推進する
    ・若手技術者の登用を促すモデル工事の実施等、優秀な若手技術者等が早期に活躍できる環境整備を進める
    ・中長期的な事業の見通しの確保等により、仕事量の減少への不安が払拭され、雇う側、働く側双方が将来を見通せる環境整備を行う
    ・将来、建設産業の中核を担うべき若手技術者等のスキルアップのため、個社を超えた教育訓練システムを構築する
    ・官民挙げた行動計画を策定し、女性の更なる活躍を推進する
    ・発注者・元請・下請等、関係者のパートナーシップの下での建設生産システムの省力化・効率化・高度化のため、適正な価格・工期の設定、施工時期の平準化等の現場の省力化・効率化や行き過ぎた重層下請構造の改善による建設生産のムリ・ムダ・ムラの排除、現場の施工力の再生を推進する

    ●省人化・省力化
     もう1つは省人化省力化で、これの具体的方策がi-Constructionです。3つのトップランナー施策(ICT土工、コンクリート工の規格の標準化等の全体最適の導入、施工時期の平準化)をしっかり頭に入れてください。

    ●人材育成・技術継承
     これまではOJTで人材育成をしてきましたが、設計も施工も人手不足+業務内容複雑化により熟練技術者と若手技術者が分業せざるをえなくなってきているとともに、複雑化した個々の作業をそう簡単にはクリアできずジョブローテーションがうまく回らなくなってきています。つまりOJT依存ではもう限界で、OJT&OFF-JTによる教育が必要になってきているのです。
     教育にはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とOFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)があります。
     OJTは仕事をしながら鍛えていくというもので、たとえば先輩の仕事を手伝いながら徐々に覚えていき、やがて先輩と同程度に仕事ができるようになるといった、日本の会社等で普通に行われているスキルアップです。
     身につくのはノウハウ・スキルといった、個人に内在する実践力で、たとえば熟練した技術者が現地調査で目の付け所が違う(多くの情報を持ち帰る)とか図面をぱっと見ただけで感覚的に妥当性が判断できるといった能力です。これは言葉や文字で説明しろといってできるものではありません。こういうものを暗黙知といいます。また、その人にしかわからない、他の人と共有できない個人知でもあります。
     いっぽうOFF-JTは仕事ではなく、「勉強」です。講習会とか、仕事の手を止めて理論的な部分を説明してもらうとか、そういったもので、身につくのは知識です。言葉や文にできます。こういうものを形式知といいます。また、その人以外のみんなで共有できる組織知でもあります。
     基礎理論を学びますから応用はききますが、実践的ではありません。実際の仕事に生かすには実践トレーニングによりスキル化する必要があります。
     すなわち、OJTとOFF-JTはどちらか一方だけを行うのではなく、OJTからOFF-JTへ(何かを経験したなら理論付けすることで体系的知識とする。そうすることで応用力が身につく)、OJTからOFF-JTへ(勉強したら頭でっかちで終わらず実践でどんどん使う。そうすることでノウハウ・スキルとなって仕事に活用できるようになる)といったことが必要です。
     さらには熟練世代が順次退職していきますが、この人たちの技術を継承していかねばなりません。これはナレッジマネジメントですね。ベテランのスキルは暗黙知であることが多いのですが、これをノウハウ集のような形式知に変換してストックし、これを使って体系的に教育するというものです。決してノウハウのデータベース化だけをナレッジマネジメントというのではないですから注意してください。

  4. 地域づくり・都市再生
    国土のグランドデザイン2050では、目指すべき国土の姿として、実物空間とICTにより生まれる知識・情報空間を融合した空間をまず考えており、これにより物理的距離を克服した地域産業活性化・地域就労なども可能とすることを考えています。
    また実物空間は、リニア中央新幹線により三大都市圏を結んだ「スーパーメガリージョン」と地方圏をネットワークで結んだ形を考えています。


    また、地方圏における地域作りの基本は多極ネットワーク型コンパクトシティになります。

    現状・原因 課題
    (ボトルネック)
    解決の方向性
    (地方都市)
    ・スプロール化/中心市街地空洞化
    モータリゼーション進展
    公共交通衰退
    ・少子高齢化、人口減少
    人口構造変化、財政逼迫
    ・経済衰退
    投資減少、働き手の不足
    ・既存インフラ老朽化
    高度成長経済期のインフラが集中的に老朽化
    ・分散型都市の弊害
    交通弱者の快適な生活が困難
    利便性の低下
    温暖化ガス排出増大
    エネルギー利用が非効率的
    ・集約型都市
    施設集約、既存ストック活用
    公共交通活用
    バリアフリー
     エリアエネルギーマネジメント、オンサイト、スマートグリッド
    ・労働力不足、都市部への流出 ・女性・団塊世代の社会参加、Iターン活用
    ・既存インフラ事後保全による非効率性
    ・予防保全→アセットマネジメント
    (集落:農山村漁村)
    ・過疎化の進行
    ・産業の顕著な衰退
    ・利便性の顕著な低下
    ・地域コミュニティ維持困難
    ・基幹産業の喪失
    ・デマンドバス、新しい公共
    ・Iターン、NPO連携
    ・グリーンツーリズム
    ・付加価値製品
    ・集約

    都市再生については、都市再生特別措置法について把握しておいてください。以下の資料が参考になるでしょう。
     ●都市再生特別措置法の一部を改正する法律
     ●都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案について(H26.2.12)


  5. 環境保全
     「低炭素都市づくりガイドライン」で示されている交通・都市構造、エネルギー、みどりの3分野の大枠は現時点でも変化ありませんが、震災や原発事故等を経て、各分野における重点事項等に若干の変化が見られます。
    低炭素都市づくりガイドライインの概要(H23.3)より
    現状・原因 課題
    (ボトルネック)
    解決の方向性
    ・都市部で温暖化ガス発生多い ・スプロール化により自動車依存
    ・交通ボトルネック多く燃費悪化→温暖化ガス増加
    ・集約型都市構造で自動車依存脱却
    ・交通ボトルネック解消して燃費向上

    ・都市部でエネルギー無駄多い

    ・熱効率の悪い建物
    ・分散により熱効率悪化
    ・熱効率の良い建物
    ・集約型都市でエリアエネルギーマネジメントシステム
    ・化石エネルギー依存
    ・再生可能エネルギー導入進まない
    ・再生可能エネルギーは小規模で不安定 ・オンサイト
    ・スマートグリッド
    ・補助や規制緩和、制度等

    ・ヒートアイランド

    ・気温上昇→冷房多用→電力消費増大→温暖化ガス ・都市緑化→冷房控えめ→電力消費鈍化→温暖化ガス抑制
    ・森林荒廃 ・木材利用の少なさ ・木材の土木利用
    ・木質バイオマス活用

  6. 官民連携、市民協働
     公共サービス等を行政のみが担当することはもう限界なので、民間の力を公共サービスに提供してもらおうということです。
     「民間」には、企業と市民(NPO等)があります。前者はインフラ整備や維持管理等について、公共から民間に委託する従来の方式だけでなく、民間資金をあてにするPFIやコンセッション方式でプロジェクトを進めようとするものです。PFIやコンセッションの仕組みをよく理解してください。
     後者のNPO等の力を借りるものは「新しい公共」や「市民協働」などと呼ばれます。NPO法人等の非営利団体が公共サービスの一部を担う(たとえば公民館等の指定管理、託児や高齢者ケア等の市民サービス、文化芸術やまちづくり等をNPO等に委託するなど)もので、地域コミュニティ維持効果のあるコミュニティビジネス、エリアマネジメント等もあります。

    現状・原因 課題
    (ボトルネック)
    解決の方向性
    ・財政難
    税収減、社会保障費増大

    ・行政だけでは投資の限界 ・民間活力導入
     PFI/PPP
    ・価値観の多様化
    きめ細かい公共サービスの必要性
    ・行政だけではサービス提供の限界
    ・新しい公共
     NPO等が公共サービスや地域コミュニティの一部を担う

  7. 観光立国
     東アジアの経済発展に伴い、外国人観光客は予想を超えて激増しており、政府は2020年における目標を当初の2,000万人から倍の4,000万人へと大幅に上乗せしました。そして外国人観光客(中でも多数を占める中国人観光客)の行動も、買い物と物見遊山から体験型への移行が進んでおり、主要観光地から地方圏へと急速に広まっています。
     同時に大都市圏を中心にホテル不足や大型バス等の交通手段不足が深刻化しつつあり、また地方圏での受け入れ体制、旅行・滞在の快適性確保も問題になりつつあります。
     日本の津々浦々で豊富にある観光資源としては、景観+歴史文化である「歴史風致」があります。これを地域資源として掘り起こし、観光資源化しようと考えられました。こういった方針に基づき景観緑三法、景観計画、歴史まちづくり法、日本遺産などの諸施策が打ち出されて、地域は景観や歴史文化を「保全する」だけでなく「活用する」ことが求められるようになってきています。
     ポイントは、点在する観光スポットを巡る物見遊山的観光から、面的にストーリーづけられ、周遊しやすいサポート(看板やガイドなど)が整えられた観光エリアにおける着地型観光への転換です。これらの整備を後押しするものとして景観緑三法や歴史まちづくり法、日本遺産などがあります。


    現状・原因 課題
    (ボトルネック)
    解決の方向性
    ・地域経済の衰退
     不況と税収減、社会保障費増大など
    ・地域間格差の増大
     民間主導の投資は地方にまわって来ない
    ・東アジアの経済発展
     観光ニーズの増大(これはプラスの現状)
    ・観光資源が不十分
     自然景観の劣化喪失(景観価値の軽視、
     生態系劣化)
     文化財の喪失、未活用
     総合把握の遅れ
     市民生活との乖離
     保全のみで活用しない
    ・歴史風致の保全と活用
     緑三法、景観計画活用景観資源掘り起こしと保全活用
     文化財総合把握と観光資源活用(歴史まちづくり法)
     市民参加による観光客受入れ
    ・東アジア観光客への対応不足
     アクセスや周遊に関する利便性不足、
     ホテル不足

    ・東アジア観光客利便性確保
     ユニバーサルデザイン
     ピクトグラム等による総合整備
     民泊
    ・観光交通インフラ整備不十分
     大型クルーズ受入港の不足
     空港整備の遅れ
     観光地へのアクセス道路、観光地内交通
     ネットワーク整備が不足
    ・観光交通インフラの整備
     大型クルーズ受け入れ港の整備
    空港整備(羽田空港、地方空港とのネットワーク)
     観光地へのアクセス道路整備
     観光地を結ぶ交通ネットワーク
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5.一歩深めた設問が勝負を分ける

 問題Vがかつての建設一般と一線を画しているのが、設問(3)の内容、すなわち課題解決策をいったん提示させたあとで、その実現策や実行に伴うリスク・負の側面とその対応策といった、さらに突っ込んだ、一歩深めた内容を考察させる設問が出るようになったことです。
 これらは白書の内容を表面的になでただけでは答えられません。白書で紹介されているような施策はあくまで方向性に過ぎず、それを実際の現場で実施するに当たっては、様々なリスク・課題が生じることを予見し、その顕在化を最小限にとどめて施策をできるだけ高いレベルで実現することが必要になります。つまりマニュアル(白書)に書いてあることをそのまま鵜呑みにして覚え、それをそのまま書けるとしても、それは技術士にふさわしい技術力とは到底言えないのです。
 ではその一歩深めた設問には、オリジナルで考えて答えればいいのでしょうか。その場合も多くあると思いますが、やはり技術者なのですから自分の頭の中だけで考えた・想像したことだけでなく、様々な実例や意見を学び、それらを自分の中で消化してひとつの意見をまとめることが望まれます。
 そういった「一歩深めた考察」の参考になるのが、白書より一段と詳細な資料情報で、国交省HPや内閣府HP、さらには国総研HPなどで勉強することができます。
 白書丸写しのような答案なら誰でも書けます。そこからさらに一歩深めた答案が書けるかどうかが合否を分けると思ってがんばりましょう。

主な施策の二次リスク例
施策・あり方等 二次リスク・残留リスク・留意点等とその対応
粘り強い構造 対象インフラが膨大で時間とコストがかかる→選択と集中など
自助・公助・共助 地域防災力の低下→NPO等と連携しての意識啓発
観光客等来訪者の安全確保→スマホ等を使っての情報提供
アセットマネジメント データベース未整備の自治体等が多い・担い手職員が不足している
→国等からの支援、地域包括・複数年での維持管理委託
点検を担う技術者が不足→ICT・IoT利活用、人材育成
OFF-JT&OJTによる教育 体系的教育訓練ができるシステム・人材が不足している企業等が多い
→地域コンソーシアムによる若手教育体制構築
コンパクトシティ 郊外市街地調整区域等の急激な過疎化
→コミュニティバス、デマンド交通等でフォロー、市民農園
PFI 参入企業がおらず成立しないことが多い
→収益事業に絞ってコンセッション方式での調達

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6.部門・科目別の出題傾向と対策

  1. 建設部門
    1. 土質及び基礎
      • H28は地質リスクとICT・生産性、H29は災害と生産性向上が出題。災害は予想通り。素因・誘因の視点が特徴的
      • 災害・生産性向上・維持管理を押さえておけば、どれも出題されないということはないと予想
      • 土基礎の切り口→柔構造・不均質・水の影響・経験工学判断。属人性高い→人材育成問題→OJT&OFF-JTやナレッジM
      • 維持管理問題→法面等の斜面崩壊、経験工学的判断必要でICT化簡単ではない等、災害や生産性向上にまたがる出題も考えられるので災害・維持管理・生産性向上にまたがってトータルな理解度を
    2. 鋼構造及びコンクリート(鋼構造)
      • H28は維持管理とインフラ海外展開、H29はICT・生産性向上と巨大災害。V-1選択が多かった模様
      • 災害(強靱化)と維持管理、労働力不足(生産性)が繰り返し出題されているので、維持管理を中心に、生産性向上やストック効果の最大化も含めて整理しておくとよい
    3. 鋼構造及びコンクリート(コンクリート)
      • H28は初期欠陥防止と温暖化緩和策で変化球ばかりだったが、 H29は生産性向上と維持管理で素直な問題
      • H28・29と出題のない災害を中心に、i-Con・i-Bridgeを含む生産性向上(3Kの克服?)、人材育成(品質確保・初期欠陥防止効果)、ストック効果の最大化などについて現状と課題、方策について整理しておくとよい
    4. 都市計画及び地方計画
      • 仮想事例的・教科書的に答えられる・あまり大きな国土開発的問題は出ないのが特徴。1問は3年連続立地適正化計画。もう1問はH28は空き家対策、H29は市街化区域内農地とタイムリーな話題
      • 1問は引き続き立地適正化計画・都市機能誘導・小さな拠点といったコンパクトシティ関連問題か
      • もう1問は道路・駐車場の空間利用、歴史風致のまちづくり(インバウンド対応も含む)、災害(木造家屋密集地、液状化、都市水害など)が考えられる
    5. 河川砂防及び海岸海洋
      • H28はICTと災害、H29はICT・生産性向上と維持管理(ストック活用)
      • まず災害を注意。防災意識社会構築を中心とした減災テーマで考えをまとめておくとよい
      • 生産性向上・維持管理は引き続き要注意。ICTを活用した維持管理(革新的河川管理プロジェクト)、ストック効果の最大化(ダム再生など)のようなテーマに注意。また生産性向上は人材育成の切り口も考えておくとよい。
    6. 港湾及び空港
      • V-1はH28まで3年間人流・物流だったが、H29は民営化が出題。いずれにせよ港湾機能の話。V-2は維持管理・災害を中心にいろいろ出題(H29は災害)。
      • 災害は一休みか。やはりグローバル化を中心にクルーズ注意。生産性革命PJも押さえておく。維持管理は業務サイクルやストック効果に注意。
    7. 電力土木
      • 災害と維持管理が二大テーマでH28は災害、H29は維持管理(災害の視点とリプレース)。よってH20は災害に注意。
      • 他科目と同様、生産性向上(ICT活用・i-Conや人材確保育成、技術継承)が考えられるので、電力土木ならではのICT活用や若手技術者確保育成、技術継承の問題を考察。
    8. 道路
      • H28はメンテサイクルと事業評価、H29は暫定2車線と地震時緊急輸送道路。問題Uも含めて行政目線での出題が目立つ。施策をどれだけ知っているかが勝負になってくる傾向が強いので、国交省HP等で道路行政について理解を深めておくべき。
      • 順当には生産性向上(生産性革命・ICT活用、i-Con、人材確保育成技術継承)や維持管理に注意。特にICT活用の取り組みをしっかり把握
    9. 鉄道
      • H28は駅改良と生産性、H29は豪雨対策と地震防災減災。
      • 2年間出ていない維持管理は出題確率高い。ストック効果の最大化とともに、のぞみ重大インシデントや大雪立ち往生などとあわせて運行安全・リスク管理の視点も持っておくとよい
      • 生産性向上・労働力不足は維持管理に絡めて保線をテーマに出題される可能性もあり
      • まちづくりと絡めた鉄道網という出題もあり得るし、新幹線輸出などの海外進出もテーマになる
    10. トンネル
      • H28は災害と品質確保(生産性や教育?)、H29は環境(低炭素・自然共生)と生産性向上
      • 順当には災害と維持管理が本命で、i-Conや人材確保育成を含む生産性向上についても出題が続く可能性あり
      • 海外進出や福岡地下鉄陥没を踏まえた地質リスク(不確実性の取り扱い)についても注意
    11. 施工計画
      • H28は労働力不足と杭データ流用を受けての品質確保、H29は民活とi-Conで後者は予想通り
      • 第一本命は災害。施工計画の場合、早期の災害復旧などが考えられる
      • 生産性向上は出題が続く可能性あり。i-Con・i-Bridgeだけでなく、維持管理や災害早期対応の担い手であることを維持するために人や重機、スキルの維持が必要で、そのために経営体力維持が必要だから発注時期平準化や地域維持型契約などが重要という組み立てなどを考察・表現トレーニングしておくとよい
    12. 建設環境
      • H28は温暖化適応策と災害復旧復興における環境配慮、H29は生態系ネットワークと再生可能エネルギー
      • H30は低炭素、戦略的アセス、インバウンドを意識したグリーンツーリズム・歴史まちづくりなどがテーマとして考えられる。
      • 環境行動計画から2年連続出題の可能性もあり
      • 生産性向上もありえる。建設環境は属人性が高いのでICT活用省人化と、ナレッジマネジメント+OJT&OFF-JTによる技術継承を準備しておくとよい
      • 環境の視点を養うために、国土交通白書だけでなく環境白書等もよく読んでおくとよい
    13. 上下水道部門・上水道工業用水道
      • H28は水源・浄水場・送配水システムにおける安全で美味しい水の供給困難要因と熊本地震を受けた水道の地震対策、H29は水循環基本法・基本計画と水道事業の基盤強化と、タイムリーな問題と普遍的な問題が混在
      • 維持管理(ダウンサイジングやコンセッション含む)を中心に、人口減少少子高齢化関連問題にも注意を
      • ストック効果の最大化・生産性革命プロジェクトも踏まえて理解を深め、過去問題でトレーニングを
    14. 上下水道部門・下水道
      • H28は農集排の下水道統合判断(仮想事例)と管路施設維持管理、H29は地震による下水処理場機能喪失と雨水排除能力不足&老朽化の対応(いずれも仮想事例)
      • 人口減少少子高齢化・防災減災・老朽化といった社会的重要テーマに、処理施設と管路で1問ずつ仮想事例が予想される
      • H29のように複数の社会的重要テーマに関する出題も考えられる
      • ストック効果の最大化・生産性革命プロジェクトも踏まえて理解を深め、仮想事例付与条件の読み取り力も過去問題でトレーニングを
    15. 農業部門・農業土木
      • 農業部門全体としては、TPPもにらんだ生産性向上と農山村活性化が重大テーマで、その中で農業土木は生産基盤整備の位置づけ。そのため農地整備(大区画化・水田汎用化)や水利施設に関する問題が多い。H28は大区画化と水利施設、H29は農地・水利施設(基盤整備全般)とパイプライン。
      • 水田汎用化(ほ場整備にかんがい排水含む)、老朽化した農業インフラ(特に水路)の維持管理、グリーンツーリズム・農家民泊も含めた自然共生型の農山村活性化などのテーマが考えられるので理解を深めておくとよい
    16. 応用理学部門・地質
      • H28は理解不足による社会問題化と地層処分、H29はインフラ整備のICT適用とトランスサイエンス問題で、タイムリーな問題とやや社会派的な問題
      • H30は地質リスク(たとえば火山や大地震)、技術継承や科学技術教育、マネジメントなどに注意
      • 科学技術白書は必読
    17. 環境部門・環境保全計画
      • H28は森里川海生態系保全と自動車エネルギー低炭素化対策、H29は温暖化ガス削減対策と多様な主体への環境保全普及啓発
      • H30は@循環型社会、A低炭素化の順で優先的に準備するとよい
      • いずれも、政策・計画策定の視点で考える。自分が国や自治体の環境施策策定担当者になったつもりで
      • 循環型社会・低炭素化とも再生可能エネルギーと不可分なので、そちらもしっかり勉強を
      • 環境部門の他の科目の過去問題にも目を通しておく
      • 環境白書は必読
    18. 環境部門・自然環境保全
      • H28は生物多様性地域戦略策定と自然公園等のインバウンド受け入れ、H29は世界自然遺産と探勝歩道のユニバーサルデザイン整備
      • H30は自然公園管理上の課題解決(施設維持管理、担い手、ICT・AI化、災害復旧、外来種対応など)やグリーンツーリズムと関連した農家民泊的な里山体験や環境学習を中心に、生態系関連(時流から危険外来種などに注意)について知識を深めておくとよい
      • 環境部門の他の科目の過去問題にも目を通しておく
      • 環境白書は必読
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